第62話

「この唐揚げうめぇ!揚げたてみたいにサクサクだし味最高」


「本当だ。これは美味い」


下にいた組員達も上がってきて、皆食べ始めた。


俺も一口齧って、少し目を見開いた。


この味、やっぱりそうだ。


「そういえば」


四季は雪那が目を逸らした隙に天ぷらを堂々と盗んでいる。


バレる前に口の中に放り込みながら、言葉を続けた。


「店主が詩由ちゃんって呼んでましたね」


「詩由…やっぱりそうか」


俺は黙々と食べながら、そんなに遠くもない過去を思い出した。


つまらないと思っていたあの時間とき、詩由は突然現れた。


妖精のような、天使のような。


ニコニコとよく笑う、光のような存在。


「若、明日のご予定は?」


「会合の前に用ができたかな」


「分かりました。誰か付けますか」


「いや、いいよ。一人で」


俺はまた一口食べ、静かに口角を上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る