第55話

「あの、その事件が何か?」


さっきのテレビ、見入ってたとはいえ、ただぼーっと画面を見ていただけで、ほとんど頭には入っていない。


詳しく聞かれても何も答えられない。


「犯人やそれらしき人間を見てませんか」


「私も最近こっちに来たばかりで…」


「そうでしたか。すいません、いきなり」


「いえいえ…「なんかいい匂いしますね」」


後ろを向くと、引き戸を開けて中を覗く黒髪の子がいる。


眉が吊り上がる金髪の方は、パーカーのフードを引っ張ってこちらへ引き戻した。


「お前…さっきから自由すぎんぞこの野郎」


「分かんないって言ってるから、もう終わったと思って」


飴をコロコロと転がして、されるがままだ。


「詩由ちゃーん、随分遅いけどどうかしたの〜?」


ロールスクリーンを上げて、明日香さんが外に出てきた。


確かに、少しゆったりとしすぎたかもしれない。

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