第32話

「けほっ、すみません、遅くなりました」


汗が張り付いて気持ちが悪い。


まだ寒い冬の冷気を吸い込んで、咳き込んだ。


「お姉さん!随分と早かったですね」


「美憂は⁉︎」


上田さんは、腕に美憂を抱えて奥からやってきた。


スヤスヤと気持ち良さそうに眠る姿に、ひとまずホッと胸を撫でおろす。


「今はお熱はさっきより下がっています。赤ちゃんは体温調節機能が未熟なので、まだ油断はできないんですが…」


小さすぎる手に触れると、弱々しく握り返してくれる。


そっか、そうだよね。


成人した大人とは違う。まだ脆くて、大人がつきっきりじゃないといけない。


「すみません、ありがとうございます。すぐ病院に連れて行きます」


保育園に預けていた毛布を受け取って、美憂を包んだ。


近くを通ったタクシーに乗り込み、やっと深く息を吸い込んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る