第31話

「……お迎え今から行きます」


『大丈夫ですか?今すごくお忙しいって…』


「大丈夫です。何とかします」


電話を切って、真っ先に部長の元へと向かった。


「部長、あの」


「お、新規プロジェクト参加する気になったか?」


「早退させて下さい!」


口をポカンとあけた部長に、私は踵を返した。


他の社員も、何を言ってるんだと言うような目でこちらを見ている。


「待て待て、どうしたんだ」


カバンに荷物を詰め込んでいると、焦ったように部長が来る。


理由を話す前に立ち去ろうと思ったけど、上手くいくわけがない。


あれこれ頭の中で考えを練っているうちに、どんどん注目を浴びていく。


「っ…!娘が、熱出しました!失礼します」


「おいっ、ちょっ、娘⁉︎」


カバンとノートパソコンを抱きかかえ、私はエレベーターへと走った。


ここは大企業なだけあって何十階もある一棟地のビルだ。


よりによって今最上階に留まっている。


階段を駆け降りた方が早い。


ピンヒールが折れても構わないと、とにかく走って会社を出た。

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