第28話

「はぁ…」


溜め息を吐いたって仕方がない。


部長と話していたこの数分の間に、デスクに山積みにされた書類に手を伸ばす。


明らかに私がする仕事じゃないのも置かれている。


「若葉さん」


肩に感じる手の重みに、振り返った。


綺麗に巻かれた髪を弄りながら、私を睨みつける。


その後ろには二人の取り巻きが付いている。


「こんなクソ忙しい時期に有給取って、挙げ句の果てに部長に媚びてるんですかぁ?」


「そんなことしてません」


「今日鈴木さんが休んでるんで、その分も終わらせといて下さい。あ、そのデスクに置いてある分、ぜーんぶ今日中です」


くすくすと笑いながら、化粧室へと入っていった。


彼女達は仕事中だろうが何だろうが頻繁に化粧直しをしに行く。


いつも仕事に必要な物より、メイク品の方が多いぐらいだ。


ぐるぐると強めに巻いた髪を気にしていたから、持ち運び用のコテで巻き直すんだろう。

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