第11話

でも大丈夫。私は嘘吐きの偽善者だから。


「それは…娘なのにいきなり妹だ!って言われて戸惑ってしまっただけで…」


探るような視線が痛い。


逸らしたら全て見透かされそうで、ただただこの男の瞳の奥を見つめた。


その割に頭はひどく冷静で、続く言葉とは裏腹に呑気な事を考えていた。


薄い赤のカラーコンタクトをしている。


そんなものしなくても充分綺麗な目をしてるのに、なんて頭の隅で考える余裕があった。


「嘘みたいですけど、私さっき離婚してきて、たった今実家に戻ってきたんです。その話し合いをしている間、その子……じゃなくて、娘を両親に預けてもらっていて……」


嘘をつく時のコツは、真実と嘘を上手く混ぜ合わせる事だ。


今までついてきた嘘の集大成をここで見せつけなくては。


もう何も失うものが無い私はどうなってもいいけど、この子は違う。


「それに、本当の事を言うと、娘と私は無関係です!って言えば娘が助かると思いました。だから知らないフリをしたんです。娘はこの件に関係ありません。私が全額お支払いするので、手を出さないで下さい」


腕の中にいる小さな存在が私の服を握りしめた。


視線を落とすと、大きな雫を目に溜めて、丸い瞳がこちらを見ている。

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