第8話
把握もなにも、生まれてから私の存在自体に興味なんて持ってくれなかった。
貧乏な家庭で、勉強をしっかりして良い仕事について私達を養ってと、ただそれだけの駒に過ぎなかったのだから。
「小遣いって」
「2、300万。『娘は大手グループの社員だから給料良いので話せば代わりに出してくれると思います!』ってお前のママが泣きながら叫んでたぞ。可哀想に、親に売られたな。妹と一緒に」
「……?妹……?」
聞き慣れない単語が聞こえた気がする。
私はずっと、この23年間一人っ子だったはずだ。
たったこの一日で経験するには、頭のおかしくなるような出来事の連続に、とにかく思考が追いつかない。
「あぅ、」
奥から現れた一回りガタイの良い体の男に雑に抱かれているのは、見覚えのない赤ちゃんだった。
「生後3ヶ月だと。お前が金を出すのを渋るなら、このガキを人質に預けるってな」
凍てつくような状況にも関わらず、楽しそうな声を上げながらニコニコと笑っている。
今抱いている男の長い髭が気になるのか、握ろうとパクパクと小さな手を動かしている。
「どういうことなの……」
「なんだ、自分の妹の存在も知らないのか」
目の前にいる男は、倒れ込む私に目線を合わせるようにしてしゃがみこんだ。
無造作にセットされた真っ赤な髪と、見るだけで高そうな光沢のある黒いスーツを着崩している。
タバコを一本咥えて、流れるように火をつけると、カチッと中のカプセルを噛み潰す音がする。
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