第6話

新卒で入社前に結婚して、早一年。


十年分の経験をしたのかっていうぐらい濃すぎる時間だった。


まさか婚姻届も出されていない、ただのお飾り夫婦だったなんて。


呆然と眺めるテレビの内容なんて、一ミクロン足りとも頭に入っていない。


悲観的になりかけ俯きかけた時、玄関の扉をノックする音が聞こえ、私は肩を震わせた。


こんな時間に誰?


配達はとっくに終わってる時間だし、お父さんかお母さんか帰ってきたのかな。


だとしたら鍵持ってるはずだし…


打って変わって忙しなく回る思考に、ゆっくりと立ち上がった。


「よく見えない…」


ドアスコープから見えるはずの外の景色は真っ暗だった。


無視して離れようとした時、鍵の開錠された音が響く。


「え?」


ドアノブが回され、必死に掴みかけてももう遅い。


驚く間も無く数人の男がなだれ込むように押し入ってきた。


玄関にいたはずの私は、いつの間にかさっきまでいたテレビのある部屋に倒れ込んでいる。


と言っても玄関からここまで距離があるわけではないけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る