第3話

「お前仕事もしてるだろ?離婚しても何の問題もねーだろ」


「……」


「あぁ、ひとつ言っとくわ」


テーブルに広げられた写真を乱雑にかき集める。


スマホに記録された、不倫相手とのLINEのやり取りの画面が薄暗く変わった。


「慰謝料とか払う金ないから。そもそも籍入れてないから、んなことしたところで意味ないけど」


あぁ、全部壊れていく。


今までグラグラと不安定に積み上げた何かが。


「俺、こいつと結婚するわ、正式に。うちの取引相手の令嬢で金はたんまりあるし」


証拠として書いていた日記帳も、集めた写真も、用意していた夕食と共にゴミ箱へと消えた。


そのままキッチンへと向かい、包丁を手に戻ってきた。


「はい、話おしまいね。じゃあ出て行って」


わずかに光っていたスマホの画面に、思いっきり刃を突き刺す。


刃先から細かいヒビが入って、完全に真っ暗になってしまった。


きっともう電源はつかない。


「……うん。分かった」


こんな状況でも笑っていられる。


目を合わせることなく微笑んで、スーツと財布だけを持って冬の寒空へと出て行った。

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