1−4

屋上に出ると、晴天の空が広がっていた。冬に入ろうとしている11月半ばにしては少し暖かい。


「ライちゃん、こっちに」


マリアがキラキラと目を輝かせこちらを見る。全員からの視線に不快さを感じるが、いっさい出さずに日陰に座る。


マリアとコウにはライ様と呼ばないように伝えている。


「ライって、まさかと思ったけど白鳥來のことぉ〜?」

「篝、知ってるの?」

「彼女はこのルックスなので、かなり有名ですよ」

「やっぱりモテるのね」


マリアがうっとりとしている。


「白鳥さん!私たちのことって、知ってるかな?」

『あまり…』

「そ、そうだよねっ。私は来栖椿って言うんだ!」


表情がころころと変わる、マリアとよく似ているな。


マリアの方を向くと嬉しそうに笑った。


「白鳥さん!良かったらあっちでみんなとご飯食べない?」


屋上に不自然に置かれたテーブルとイス。ここが彼らの縄張りなんだろうか。


『あとで行くね、、』

「マリアたん、可愛いよねぇー。白鳥さんはいつから知り合いなのー?」

『子どもの時からかな、』

「へぇ〜。ねぇ、白鳥さんって彼氏いるの〜?」


コウのように間延びした話し方をするのは篝るい。


遠くで渡辺十全たちとご飯を食べている、マリアとコウが篝を睨む。


面倒は起こさないでくれよ。


「るい、失礼ですよ。それと、ご飯十全に取られますよ」

「それは大変だぁ〜」


そういってテーブルの方に向かって急いで歩く。


「るいが失礼しました。私は藍沢夏稀です」


探るような目で私を見つめる。


一応情報参謀的な役割をしているのか、それと、遠坂から離れないあたり、遠坂も一番信頼して隣に置いているんだろう。


おそらくマリアとコウ、そして私のことも調べ済みなんだろう。


まぁ、何も出て来やしない。世界トップの殺し屋に所属する情報屋が管理しているんだからな。


『藍沢くん』

「なんでしょうか?」


張り付けた笑み、ライアーが見ると同類のようで嫌悪を感じそうだな。


少し笑いそうになる。


『マリアとコウは邪魔してないかな?私も、』

「大丈夫ですよ。桃李も何も言いませんし、桜さんもマリアさんと会ったばかりなのに息が合うのか、気に入っているので」

『そっか』


来て良いとは言わないあたり壁は作っているな。


「教室にはあまりいらしてないようですが、私たち同じクラスなので、仲良くしてくださいね」


そして、藍沢夏稀も食事をしにいく。


日陰に残ったのはわたしと、、、、


「お前は行かないのか」


声の主を見る。

薄茶色の天然パーマ、高身長。纏う雰囲気は重く、完全にこちら側の人間。


遠坂組若頭、遠坂桃李。


一度だけこの学院で会ったことがある。


『日向は嫌いで』

「……俺もだ」


少し肌寒い風だけが吹き、静かな時間が流れる。まとう空気は違っても、あいつと同じように居心地は悪くはない。


あの子と同じ血が流れてる、というのもあるんだろうな。


「理事長とは親しいのか」

『…なぜ?』

「あのとき、倒れただろ。理事長と話す喋り方も今とは違った」

『そういうこと、、』


理事長室で私が仕事の会話をしているとき、誰かが近づいてくる気配がしたから話題を変えた。


それが遠坂桃李だと知ったのは、私が話し終えて理事長室から出るとき、立ちくらみがしてふらついたところを、こいつに支えてもらったからだ。


そのあと理事長が私に敬語を使い、私が普段の口調で話したのを覚えていたのか。


もう一月も前のことで、あのときから私たちはあってなかったが まさか印象に残ってしまっているとは思わなかったな。


確かあのときは体調が優れず、そのあと倒れたはずだ。


ふらついたのと、倒れたのは訳があるが、、、まぁそれはまた。


しばらく遠坂と話していると、藍沢がマリアの代わりにカーディガンを持ってきた。


こちらも探られすぎるのは居心地が悪い。


「私、そろそろ行くね」


ほら、藍沢が着いてこようとする。まぁ屋上のドアまでということなら良いだろう。


「白鳥さん、あなたは何者ですか?」

『なぜ?』

「情報が普通すぎる。ですが、貴女の纏う雰囲気は一般人のそれとは程遠い。隠し切れていない」


隠し切れていないというより、もとより隠すつもりがないからな。


隠さなくても、不都合があればそいつを殺せば良い。


私はそうやって生きてきた。


ドアの前で振り向いて藍沢を見る。


面白い眼をしている。すっと近づいて藍沢の目尻を触り、頬にキスを落とす。


「......ッ、」

『その、貼り付けた笑み...嫌いじゃないよ』

「な...」


そして、少し声を低くして


『またすぐ、会えるだろう』


呆然と立ち尽くす藍沢に嘲笑し、屋上から裏門へと足を進めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る