3-3
あるドイツ郊外の倉庫。
そこに全身黒に纏いピエロの仮面をつけた男と、ボロボロの鎖と枷がついた女の子が少し離れたところに立っていた。
「ライ、間違えないでくださいね」
『.........』
日が経つのは早く、あっという間にその日が来た。
今日までにやっていたことと言えば、殺しをする建物の構造を把握すること、刀の手入れ、銃の練習、そしてシナリオの確認。
叔父の作った計画はこうだ、貴族の裏の問題を探ってる刑事に情報屋を買収して軽い情報を掴ませる。
まずはガセかもしれないと、一人もしくは数名で乗り込んでくるはず。
そこに叔父が出ていき、真実を話す。
事実を知った以上、誰一人として無事に帰す気はなく、タイミングを見て私が刑事を殺す。
『くだらない』
叔父はシナリオが大好きだ、何かとゲーム感覚で遊びたがる。
そんな叔父の異常さに父さまは少し呆れているが、頭のキレる弟がいるから臓器売買や人身売買が滞りなくできている。
そして、臓器売買に関わる組織の全ての権力を握っているのはこの叔父だから、強く言うことはできない。
私も少しでも逆らえば罰が下される。初めは手が折られる程度だったが、前回は指を切り落とされた。
もちろん仕事に支障が出るところは叔父もやらない。
『駒は駒らしく』
いろいろ考えつつ、ふと倉庫全体を見渡す。今夜のために用意されたのか競売のようなステージ。そして、構図を頭で思い上がくと気になる点が出てくる。
奥の不自然な壁。
本来、倉庫に仕切りはなく開放的になっているのだが、構図にはない壁があった。おそらく数年前に作られたもの。
『おじさま。あれは?』
倉庫を指差し聞いてみる。
「あぁ、お前はやはり天才だ、違和感に気づいたんですね。まぁ、またすぐ知ることができますよ。」
『......』
なんとなく二人がやっていることは分かってる。そして、それに私も参加させられていると言うことも。
倉庫に用意されたステージで叔父が立っている。そして、私はステージの真上に設置されたライトに登り待機している。
程なくして遠くから人の気配...
1...2、
3........
『3人です』
「予想通りですね」
大体の刑事はバディで動く、二人に加えて大きい事件になるかもしれないと、念のためもう一人来るだろうと踏んでいた。
予想したのは私。裏の世界の動向は普段から情報を渡され頭に入れている。
誰が殺され、誰が捕まったか、どんな組織があるのか。小さいことから大きいことまで情報を入れ、叔父と父さまを助かる。
それが私の仕事。
殺し屋という仕事は私に向いていると思う。そして、人を殺してる自分も別に嫌いではない。
それも全て狂っているのだろうか。
ガラガラと倉庫のドアが開き、拳銃を持った刑事が順番に入ってくる。
そして少しステージの方に歩いてきたところでライトが落ち、ステージだけが明るくなる。
「Welcome to the stage!!!!」
元気よく仮面をつけた叔父が語り始める。
「お待たせしました刑事のみなさま。今宵私たちが出会えたことはまさに奇跡とでも言えるでしょう」
長々と語る叔父は楽しそうだが、刑事は引いている。
そして10分ほどして、痺れを切らしたかのようにパァンッと弾が地面を凹ませた。
辺りは静かになる。
「......ゴホン。失礼、それではここまでの情報を見事手に入れた刑事のみなさまに、正解を教えましょう」
そう言って語ったのは、自分が世界最大の貴族の家系だということ。
そして、臓器売買、人身売買を行うデカい組織のボスは自分だということだった。
刑事たちはさらに唖然としていたが、それを乱すかのように叔父は追い打ちをかける。
それは実際に目の前で臓器売買がどういうものなのかを見せるというものだった。
刑事たちは引き金を引こうとするが、すぐさま仮面をつけた使者たちに鈍器で殴られ、血を出し床に倒れる。
息はまだある。
叔父が合図を出すと奥の壁が開き、12歳くらいのひどく怯えた女の子が出てきて、無理やり叔父の横に立たされた。
『こども......どうして?』
奥の壁をよくみると、年齢の違う何人もの子どもが怯えた表情で部屋の隅に固まっている。みな、鎖をつけられ自由には動けない。
あぁ、、、、私と一緒か。
叔父の横にいる女の子も顔は腫れ、殴られていたのだとわかる。
私は叔父の考えが分からなかった。
ただ一つだけわかるのは、今からその女の子が殺されるということ。
漠然とした嫌悪感を抱きながらも、刑事を殺すということしか考えてなかった私は、この場の状況をどう収められるか、脳と神経の全てを研ぎ冷まして考える。
女の子の臓器を取り、刑事も死ねば叔父は満足する。ただ、臓器が綺麗な年齢だからと捕まえられた女の子が私の目の前で死ぬのはあまりにも不愉快。
女の子は今にもナイフで体を切断されようとしている。
それを見ると同時に身体も動いていた。
気配を消していたのを解き、ライトから飛び降りる。叔父のナイフが女の子にあたる寸前のところを、自分の刀で止める。
ガキンッ
刃と刃が混ざり合う。
叔父は目を見開き、刑事たちは私の姿に呆然とする。
『おじさま、そのシナリオはうつくしくないよ』
叔父のナイフを跳ね除け、仮面の男たちを次々と殺す。女の子を倉庫から逃し、最後に刑事に近づく。
すでにかなり殴られ疲弊しているのか、息をたてているだけだった。
『いま、ラクにしてあげるね』
そういって、3人の刑事の首を落とす。死んだことも感じないように、素早く。
倉庫は血の臭いが漂っているだけで静まり返っていた。
「ライ」
突然後ろから声がし、振り返ろうとしたら、背中に鋭い痛みが走る。
『ヴッ、、』
叔父がナイフを持って唇を震わせている。
右肩から背中、かなり深く抉れたのか血は止まらない。
「なぜ私の邪魔をした。なぜ逆らった」
『......ほんとうのことを教えても教えなくてもあの人たちをころしてたから』
「あの子どもを逃したのはなぜだ」
『私みたいに優れてるわけじゃない。よわいから、誰にもつたえられない』
「......」
じくりと疼く背中。ぼやける視界。
さすがの私でも、ここまでの傷には耐えられないんだと実感した。
叔父はそんな私を憎悪の眼差しで見ている。
「まったく、私の仲間をこんなにも殺してしまって。また集めないといけませんね」
赤い血がボタボタと私の足元に落ちる。
息が、呼吸をするのもしんどくなってきた。
今ここで倒れたら、
私は死ねるのだろうか...。
『......ッ』
叔父はふぅと息を吐くと、
「まぁ良い、お前の予想外の行動には驚きましたが、新しいゲームを思いついた」
そうニヒルに嗤い呟く。
「お前が新しi......」
愉快に笑う叔父の最後の言葉を聞く前に、意識が遠のいた。
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