3-4
裕翔side
–– エーヴェルヴァイン日本支部 ––
『起きたらまた鉄格子の部屋にいた』
平然と語るライに胸が痛む。背中の傷、一度見たことがある生々しい痕跡。
幼い女の子が、いったいどれくらいの壮絶なことを経験してきたのだろうか。
ライと初めて会ったのは七年前。
殺し屋ということは知っているけど、ライも多くは語らず秘密ばかりでこうして新しい話が出るたびに戸惑ってしまう。
それに・・・
「その、ライの叔父さんが今回の手紙の元凶なんだね?」
『おそらく。まだあちらも動く気はないだろうが、何か企んでいるんだろ。薔薇の一族も一枚噛んでいるはずだ』
薔薇の一族...何となく聞いてはいるけど、ライが関わるほどの相手にも思えない。ただ、本当にこの叔父さんと関係があるなら真っ先にこの子は動くだろうね。
「動く気がないのはなんでだい?」
『あいつはゲームが好きなんだ。役者、日時、シナリオすべてが最高の状態でないと始めない』
「...異常だな」
「快楽主義者なんでしょうね」
それにしてもライが気絶するときに聞いた最後の言葉はなんだったのか。
「最後の言葉は覚えてるのかい?」
『......いや』
「そうか...」
「ライ様、ドイツでも数名、なにか調べてる様子の社員がいると」
『やはり私がいなければ無理か』
「私がドイツへ」
『いや、日本はお前に任せる』
「いつ頃に?」
『会合が終え次第向かう』
ライにとっては良くないことのような気もする...
いや、まて、、もっと重要なことが、、
「...ライ、ということは、君は臓器売買の組織を束ねる元貴族の、直系の、ッ」
『......』
今にも闇に吸い込まれそうなほど暗い、深紅の眼でじっとこちらを見つめてくる。
少しの殺気、私だから手加減されているんだろう。
それでも冷や汗が出る。
ライは私に怒っているわけじゃない、私がどう考え、どう返答するか待っているんだ。
世界的に有名な貴族が一夜にして滅ぼされたと言われている「赤零のクリスマス」。
その被害者となった貴族の当主は誰もが知っている。
ジャン・ヴォルフラム・フォン・エンリッチ
妻のシャルロット、息子のシエル。そしてもう一人、話にあがったライの叔父、レイン・ヴォルフラム・フォン・エンリッチも消息不明。
滅ぼしたのは零狼、赤狼という殺し屋という噂だ。もしこの二人がそうなら、
ライが自分の家族を殺したことになる.........
ただ、エンリッチに娘がいたというニュースはない。
あの事件は人がやるにはあまりにも残忍すぎて瞬く間に世界で広まり、各地で報道された。大きな貿易会社だったため、各国での株価暴落も激しかった。
ライの話を聞く限り、消息不明の叔父はまだどこかで生きている。
これまでエンリッチが隠してきた臓器売買に関する情報、今でも追っている殺し屋や警察は多い、少しでもそれが明るみになれば...。
そして、もしライの情報も漏れ、臓器売買に関わっていた貴族の生き残りだと知られれば、その叔父もライも世界中から狙われることになる。
ライはこれを懸念していたのか。
だから信頼できる人材を集めて、自分の家族が起こしたことを片付けている。
Xならどうにかできるかも知れないが、数百、数千の組織となれば流石のライでも...それにXと並ぶ殺し屋組織はまだある。
「本当の名前が、知られてはいけないんだね」
『......』
「大丈夫。私はライを裏切ることはしないよ」
「...貴方は察しが良い。だからこそ、深く知らない方が良いこともある」
そう言ってライアーが後ろで構えていたナイフをおろす。
あぁ、試されていたんだね。
「俺は裏の世界には向かないよ」
『お前はそれで良い』
「どういう意味でだい?」
『......さぁな』
答えが返ってこないことは分かる。それでも、少し、ほんの少しだけ期待しても良いだろう?
私の気持ちは...君が一番良く知ってるはずだ。
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