2-4

闇鬼との会話を終え、10分ほど走り、【Lilie -リーリエ-】と書かれた路地裏にひっそりと佇むバーの前に降り立つ。


『マリア、コウ』


ずっと後ろをついてきていた二人。呼ぶと音も立てずにビルの上から降りてくる。


「二人とも仕事は終わったんですか?」

「ライアー、当たり前ですわ。コウはともかく私を誰だと?」

「えぇ〜マリアひどいぃ〜。ライアー僕も頑張ったんだよぉ〜?」

「頑張りましたね」

「てゆ〜かマリア、服が汚れるから嫌だとか言って片付けもしないしさぁ〜」

「喧嘩はやめてください」

「ふん、薄汚い男の死体に触るなど穢らわしいですわ。私は人形のような少女を愛でていますのよ」

「うへぇ~悪趣味~」「悪趣味ですね」


マリアが私たちを殺すような目つきでライアーとコウを見ている。


「それよりライ様、やはりあいつは使えるのですね?」

「藍澤夏稀も僕が言ったのにぃ〜」


『コウ、マリア、ありがとう』


二人を静かにさせるには私の言葉が一番効く。その証拠に頭を撫でられうっとりしている。


『ライアー、招待状を用意してくれ』

「かしこまりました」


藍澤夏稀はこれから招待状を受け取り、どの道を進むのか決める。私たちと共に進むならしばらくはドイツへ行くことになる。


「十中八九来るでしょうね」

『...』





ギィィイー


建て付けの悪い古びた扉を開く。


「ライ様、おかえり」

「よぉライちゃん。今日は逃げられねぇぞ」


薄暗いバーカウンターの中でタキシードを着てパソコンをいじる男。


その前でタバコをふかしている白衣を着た男。


『ヤブ医者か...』

「お前その呼び方そろそろやめろ」


遠坂組お抱えの医者で、普段はどこかの病院で勤務しているらしい。


訳ありで各国に担当の医者が必要で日本には当てがなかったところ、遠坂組の組長、正蔵がこのヤブ医者を紹介してくれた。


向井保志(むかい やすし)という名前はあるらしいが、ヤブ医者で良い。


.........チッ


「あー?今舌打ちしたか?」

「ライ様、定期検診の件で私がお呼びしました」


ライアーが後ろから話しかけてくる。それに無視してもう一人のタキシード姿の男を見る。


四ノ宮海斗(しのみや かいと)。四ノ宮秋の息子で、元は日本でも腕のたつ情報屋。Xに引き入れたあと私が教え込み、世界TOP5に入るほど成長した男だ。遠坂たちの先輩でもある。


『.....海斗』

「なに、ライ様」

『薔薇の一族を洗ってくれ』

「了解」

『昴とエルザを呼んだ』

「久しぶりだね。全然連絡返してくれないから絞めないと」

『......』




「おーい、俺は置いてけぼりか?」


ヤブ医者が騒ぐ。来てしまったものは仕方ないか。


『......上がるんだろ』

「やけに素直じゃねぇか。良いことでもあったのか?」


軽く息を吐き、バーの奥にあるエレベーターに乗る。


「ライ様、私は海斗と話をして上がります」

『......』


一瞥だけして【5】と書かれたボタンを押す


このエレベーターは上に上がるのではなく、一度下へ行き止まる。そのあと特別なナンバーを押すとさらに横に動き出す。


しばらくして着いたのは豪邸のようなところ。地下にすべて作ってあり、訓練所や研究室など階層ごとに分かれている。


最下層が私の部屋。Xを作り、日本でのメンバーを招集したときからここは存在しているが、私が長めに滞在するのは今回が初めて。


普段はドイツを拠点に世界中を回っているからだ。


刀や銃、ナイフを全て武器棚に戻し、フードを外す。鏡を見ると白髪に赤い眼、真っ白な肌の自分が映る。


アルビノ。先天性の疾患で人よりも皮膚が弱く、陽の光に当たってはいけない。


服を脱いで顕になった体は傷だらけ、肩から背中にかけて大きく切り裂かれた傷跡もある。


黒いローブを纏い、ヤブ医者がうるさくなる前にクイーンベッドに横になる。


定期検診はアルビノのことではない、私はもう一つ重大な疾患を抱えている。


「飯、食えてるのか。また痩せたんじゃねぇか」

『......』

「ったく、点滴すっぞ」


栄養補給のための点滴、ご飯をほとんど食べないわたしには生きるうえで必要不可欠らしい。


昔から動けるくらいの量しか与えられなかったうえ、長期的な仕事になると1、2カ月全く食べないということもザラだった。


それでもこうして生きているから、食事はそこまで必要ないものだと思っている。


ただまぁ、今食べてないのは、単純に日本食が口に合わないから。


『今は良い』

「...食べねぇと力が出ねぇんだよ」

『私にはそこまで必要ない』

「...また、縮むぞ」

『.........問題ない』

「おまえッ!!......いや、こいつに言っても無駄か」


コンコンと音が鳴り、ライアーが入ってくる。


「ライ様、コーヒーをお持ちしました」

『あぁ』

「よぉ側近さん。あんたのライ様はこっち来てからなに食ってんだ?」

「朝はスープ、午後はコーヒーですね」

「人間の食事はそれで良いと?」

「ライ様に日本食は合いません。ドイツのシェフを手配中です。こちらに拠点を置いたのは先日のことですので、」

「ライさんよぉ。ドイツの食事なら食べるのか」

『...たまに』

「はぁ~。まぁ、今回はこれで許してやるよ」

「ひどくなってますか」

「着々とな」

「...そうですか」

「側近なのにそれだけか?」

「ライ様を止める権利は誰にもありません」

「俺は医者だ。患者が死ぬ前に止めるのが普通だ」

「日本の医者は面倒ですね」

「他はちがうのか」

「ライ様のことを止めるなど、立場をわきまえられた方が良い」

「ほぉ、こいつを怖がって何も言えないと。大したお医者様だな」

『うるさい』

「お前の話だぞ」


面倒な医者だ。ライアーも呆れているがうまく間に入っている。こいつ...私を遊んだな。


呆れた感情でXに届いた殺しの依頼や今回の仕事の整理をする。倉庫でのことは公には出さず、内密に処理してある。


処理したのは【影】。


影…殺し屋組織Xの秘密裏に動く隠密部隊。


ライの命令だけでしか動かない直属の部隊のため、その存在は誰一人として明らかになっていない。


高ランクの基準に通過したものだけが影になれると言われているが、真実は知る由もない。


あの時間、たまたま倉庫の周りにいた人間も全員消息不明。日本の警察も絶対に私たちを追えない。


すべてが謎に包まれているため、今ごろ頭を悩ませていることだろう。

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