2-3
闇鬼Side
どういう状況なのか理解しがたいですね。
ただ、いつも歩いている路地裏で俺が死にかけているということだけはわかります。
「お前たちは何者だ」
普段と違う口調で話すのは、本当の私の存在を知られたくないから。
「何者とは?」
さきほどから話している薄い笑みを浮かべた赤髪の男。
顔は月明かりが反射して見えず、腰に物騒なものをぶら下げているうえに、ほとんど気配もない。
私よりも腕の立つやつに間違いない...ですね。
隣にいるフードを眼深に被ったやつはおそらく女性。
一言も話さないが、赤髪より強そうに見える。
風が吹くと同時に少しだけ香る血の臭い。
私と同じか、いや、それ以上か。
何度か質問と回答を繰り返し、隙ができないか様子を伺う。
さっきから少しずつ増えていく何かの気配。
人、、、のようには思えないほど闇が渦巻く感じに嫌悪感を覚える。
「(今日は運が悪い)」
ある会社から依頼を受け仕事をしていたはずが、欲しかった情報はすでにターゲットと一緒に消えていた。
念のため少しでも痕跡が残ることを避けるため、ターゲットの家を燃やす。
今頃、火事に気付いた隣の住人が通報している頃でしょうね。
ほら、遠くでサイレンの音が聴こえる。
自分の奥底に渦巻くグチャリとした何かを満たせないかと始めたこの仕事。
最初は悪いやつらを探して片っ端から殺していたが、いつしか闇鬼という名前が広まり、依頼が来るように。
3年間、順調だった。けれど、今ここに来て窮地に立たされている。
「私たちが何に見えますか?鬼?それとも、悪魔?」
この男は何が知りたいんでしょう。
終始、薄笑いをしていて、口調もどこか私と似ていて気持ちが悪い。
鬼ですか、鬼は私でしょう。悪魔、、、、悪魔というのもこの二人にはぬるい気が。
ふと女を見る。相変わらず顔は分からない。
..............................................闇。
暗く、重苦しい。少しでも踏み込めばすべて飲み込まれそうなほどの空気感を持っている。
「闇、ですか。」
「何も分からない。ただ、暗いことだけはわかる。確かに存在しているが、存在していない、そんな風に見える」
今日ここで死ぬと分かっているからこそ、最期まで二人の頭に焼き付けてあげましょうと少しだけヤケになって話す。
「それで、何者なんだ」
「なに、、、しがない殺し屋ですよ」
「俺を殺すか」
「だとしたらどうします?逃げますか?」
「逃げられないのにか」
当たり前の質問をしてきますね。
「どうして逃げられないと?」
「白々しい、上にもいるだろ。あと、そこの路地にもなにかいる」
その何かは分からない、けれど...。
赤髪の男がさっきよりも少しだけ目を見開く。驚いている...?
そして微笑みながら隣の女を見つめ、あり得ない名前を口にする。
「零狼」
れい、、、ろう、、!?
世界でおそらく一番強いと言われている殺し屋。
本当に存在しているのか、どこにいるのか、性別も年齢もなにひとつとして分かっていない伝説の殺し屋。
おそらく赤髪の方が赤狼なんでしょう。
はっ......逃げられるわけがない。
殺気を出しながらコツコツと近づいてくる零狼。
一歩でも動けば殺される。
気づけば目の前に居て、耳元で囁かれる。
『お前は、何が欲しい?』
深紅の眼、、、、、、、、、
何も言葉が出てこない。声を出せない。張り詰めた空気に全身から冷や汗が出る。
口角だけをあげ、冷たく微笑む。
異様なほど整った顔が月明かりに映し出される。
『もう一度聞く、お前は何が欲しい』
あぁ、、この人は、、、
本当の私を知ってくださるんですね。
「.........血を、ください」
『...............覚悟を決めろ』
口角を上げているが目は一切笑っていない。
気づけば殺気はなくなり、誰の気配もしなくなっていた。
手が少し震える。
「ふぅ........」
何かもわからない感情を押し殺す。
血が欲しい。四年前のあのとき、、いや、本当はもっと前から、血に飢えていた。
今まで満たせなかった心が、私のなかで変わるんじゃないかと感じ、気持ちが昂る。
「また、会えるのですね」
自分でも驚くほど自然な笑みを溢しながら、帰路についた。
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