2-1 殺し屋X
太陽は沈み暗闇が広がる。
あたりが静けさに包まれた頃、月明かりが届く雑居ビルの屋上に身長差のある男女が佇んでいた。
男は赤髪でコンパウンドボウを背負い腰にはナイフ、女は暗闇でもわかるほどの長い白髪、両腰にはしなやかに光る刀とグロックを身につけている。
「集まっていますね」
『.....弱い奴ほど群れたがる』
「おっしゃる通りです。それにしてもむさ苦しい」
二人の視線の先には倉庫があり、男たちが互いのグループに分かれて睨み合いをしていた。
片方は日本人、もう片方は英語を話している。
少しの睨み合いが続いたかと思うと、それぞれのチームから3人ずつ前に出て、うち一人はアタッシュケースを手に持っている。
「取引が始まります」
『......』
「なかにどれくらい詰まっているのか...」
『......』
「......」
『.........いくぞ』
「かしこまりました」
声を出したと同時に雑居ビルから男女が居なくなる。倉庫では男たちが今まさに何か取引の物を渡し合おうとしていた。
次の瞬間、倉庫からは多数の怒号や悲鳴が響く。何が起きているのか分からないものもいる。
ザシュッドスッ
ぎぃぁぁああ゛あ゛あ゛あああ!!!!!
パンッパンッパン
うあ゛あ゛あ゛ああ!!!
また一人、また一人と減っていく。
刀で体を切り裂く音、銃声、倉庫の屋根から斜め下に飛ぶ矢の音。
辺りは血の海。
倉庫を支える柱には矢が刺さった男が膝立ちの状態でもたれかかり死んでいる。
真っ黒い服に身を包み、眼深にフードを被っている女。
フードの隙間からは透けそうなほど綺麗な白髪が揺れている。
『滑稽だな...』
ニタリと嗤う眼はひどく冷たく、深紅に染まっている。
逃げ惑う男たちにコツコツと優雅に歩きながら迫る。
気付けば倉庫はシン...と静まり返っていた。
ヒィイイイイイイイイいいいいい!!!!
まだ生きている最後の一人は恐怖で足が動かないのか、漏らした状態で座ったまま後ずさりしている。
右手にはアタッシュケース。
「外の連中も片づけました。あとはこいつだけです」
上にいた赤髪の男が降りてくる。
『......』
「た、助けてくれッ!!!こッ、これが欲しいなら全部渡してやるよ!!!」
「......? お金は必要ありません。欲しいのは貴方の臓器です」
「ヒッヒィイイイイイイイイイイイイ!!!!」
ザシュッ ...
「ぅあ・・・? あ、ぁ あ゛あ゛あ゛あああ!!!!!」
切れ味の良いナイフで右腕が切り落とされる。
ザシュッ
「ぎぃぃいいあ゛あ゛あ゛ああゔあぁああ!!!!!」
ザシュッ
左足、右足。
感情もなく一つずつ落としていく男。残忍なやり方を止めるものは誰もいない。
『ケースをあけろ』
「あ゛あ゛ッ...ゔ......」
声にならない声を上げている男に白髪の女が命令する。
「あ゛ゔあ゛ッ...ゔ『うるさい』
「申し訳ございません」
「やッ、、、やめてくれっ、、、、やあ゛ぅ がッぁ」
女の冷たい声に赤髪の男がすぐさま反応し、涙と鼻水を流し辺り一面に血液を広げている男の、煩わしい声を止めるかのように舌を切り取る。
『ケースをあけろ』
静かになった男にもう一度命令する。
「......................」
瀕死の男は命令に従う以外の道はなく、唯一残された左腕でアタッシュケースをあける。
なかには臓物のようなものが入っていた。
「女ですね」
『......車を探せ』
「かしこまりました」
赤髪の男は車のなかの証拠を探し、情報を渡すための写真を撮っていく。
臓器売買。
今まさにここが取り引きの場だった。
この人身売買、臓器売買などはすべて、ある高級貴族たちが関わっているとされている。その貴族を追っているのが、ここにいる二人の殺し屋だ。
「情報はすべて」
『......』
「......、......、、」
男の合図に目の前で血を流している男を見る。目を見開き、息はほとんどしていない。
普通ならもうすぐ死ぬ人間には情けをかけるが、白髪の女は普通ではない。
女はなんの感情も持たず、何度も何度も男の体を刀で切り裂いていく。
すでに人間としての原型はない。
そして、無惨にもケースに詰められたどこかの女性を見る。
『I'm sorry I couldn't bring you back to life,,,』
― 生き返らせてあげられなくてごめんね
慈愛のような感情を体のない女性に向け、すぐまた絶対零度の空気を纏う。
『alpha,clean up.(アルファ、片付けろ)』
倉庫の陰から一切の気配なく黒装束が現れるが、話すことなくまたすぐどこかへ消えていく。
赤髪の男と白髪の女が倉庫をあとした後、しばらくして先ほどの黒装束と同じ姿をしたやつらが数名あらわれなにかを始める。
次の瞬間、時間はほんの一回瞬きをしただけ、今までのことがなかったかのように綺麗な倉庫になり、人だと分からないような死体や車もすべて消えていた。
―
コツコツコツ
カツカツカツ
路地裏に靴の音が響く。
「ライ様、お疲れ様でした」
『......あぁ』
日本での仕事は簡単で、ライアーだけでも、いや、コウとマリアだけでも十分に事足りる。
ただ、今日は特別なことが起こる気がして、私も出てきた。
先ほどの倉庫の件を思い返してみる。
臓器売買は日頃から日本警察や組でも調査が進んでいるが、情報をうまく隠すやつがいるようで手当たり次第になっていた。
たまたま私が日本に行ったときにその話を聞き、調べてみればビンゴ。
私の追う組織が関わっていた。
本来、日本のことはどうでも良いが、組織が関わっているというのであれば話は別。
私たちが出向いて処理をするのがもっとも美しいエンディングになる。
物語はすべて私の手の上にあるのだから......
片付けをさせたのは、影と呼んでいる私の直属の隠密部隊。
「昴とエルザは明日到着予定です。」
『すぐ仕事だ』
「会合も参加させるのですか?」
『あぁ』
「 、 」
ライアーが話そうとしたとき、かなり遠くから人の気配を感じて二人とも止まる。
相手はまだ気づいてないのかこちらに向かってくる。
動揺もせず、ただ無言で待つ。
「誰だ」
数十メートルのところで気配を感じ取ったのか話しかけてきた。
路地は暗闇のためお互いの姿はみえない。
『......』
「...そちらは?」
「......チャッ...」
銃を手にした音がする。普通なら聴こえないわずかな音でも私たちは逃さない。
同時に目の前のやつに加え、上からもまた二つ気配が増えたことを感じる。
仕事、終わらせたか...
「手に取ったものは戻した方が無難かと」
「ッ、、、」
気配が増え、下がることもできないと悟ったそいつは銃を腰に戻し、月明かりに姿を現す。
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