1-1

7年後、東京


【四ノ宮学院高等学校】担任Side

ゴーンゴーン


「鐘がなりましたわね」

「えぇ~まだお腹空いてるんだけど~」

「コウ、うるさいですわ」

「なにぃ~?マリアは今日もキレ味いいねぇ~」

「だまらないと殺しますわよ」


なにやら物騒な話ではあるが、理事長室では4人の男女が集まって談笑している。


いや、正確には5人いる。この学院の教師であろう男はいましがた理事長室に来たばかりで、この光景に頭を悩ませている。


まずスイーツや紅茶を散らかしながらむさぼっている男女二人。同じ背丈で男の方は赤髪で前髪は目にかかるくらい。黒縁のメガネをかけて学ランの中に赤いパーカーを着ている。(赤が好きなのか?)


女の方はブレザーを真面目に着こなしている。ミルクティーブラウンのふんわりとしたミディアムヘアで少しウェーブがかかっている。


話し方からどこかのお嬢様のような感じだが、ふるまいは...周りの散らかりようを見れば分かる。


二人は外国人なのか日本語は少したどたどしい。それでも流暢に話している方だ。


3人目は白鳥來(しらとり らい)。色素の薄い茶髪に、フードを目深に被っているため顔はいつも分からない。


この学院には一学年のときからいるが、なかなか授業に参加していない。それでもテストは常に上位に入るほどの頭脳を持つ。


理事長と親しいのかよく理事長室にいると、教師の間でも噂になっている。


そして、最後がこの学院の理事長でもある四ノ宮 秋(しのみや しゅう)。


この学院は様々な大企業の子どもが集まる。それは表の世界だけでなく裏の世界も同様。理事長の方針としては、伸び伸びと地位を気にせず過ごせるようにとの思いだそうだ。


「あぁ、先生こられていたんですね。ほら、二人ともそのままで良いから教室へ向かって。先生、よろしくお願いしますね」

「はい。...そこの二人行くぞ。白鳥も授業ちゃんと受けるんだぞ」

「はぁ~い」


『......』

相変わらず白鳥はそっけなく、俺の方を一瞥だけして視線を理事長に戻す。全然可愛くねぇな。理事長とどういう関係だ?


「それではライ様、お先に失礼いたします」

「失礼しまぁ~す」


コツコツと長い廊下を三人で歩く、ふと後ろにいる二人の話に耳を傾ける。


「コウ、その話し方どうにかならないんですの?」

「えぇ~これじゃダメぇ~?」

「ダメですわ。ヘラヘラもやめなさい」

「分かったー」


不敵な笑みで抑揚のつけた話し方から、どこにでもいるような学生の雰囲気になる。


「でも、それ言うならマリアもじゃない?」

「分かってるわ」


二人とも何者だ...?


「話し方、変える必要あるのか?」


「ん~?」


「明らかに雰囲気も違っているが、本当に学生か?」


「見えないかなー?じゃあ、先生はそれ、素なの?」


「素...と言われれば素ではないが...」


「でしょ?僕らも猫被りたいんだよ」

「あんたと一緒にしないで。日本の学院は初めてだからいろいろ調べたんだけど、いじめが多いって書いてあったんです」


「なるほど...。二人とも海外から?」


「私はフランスです  (嘘だけど)」

「僕は日本育ちだよ  (同じく嘘〜)」


「日本育ちのわりには日本語が少し片言だな」


「あぁー、親が英語で話すから、かな?」

「そうなのか」

「ねぇ先生、私たちは何組ですか?」


この話はNGだとでも言うかのように話題を変えてくる。


「3組だ。俺のクラスだから真面目に勉強するんだぞ」


「勉強やだー!!a「コウうるさい。」

「マリアたんやっぱりいつにも増してキレキレだねー」


学院はデカく、当然廊下も長い。理事長室から少なくとも10分はかかるだろう。


「そういえば、白鳥來とは知り合いなのか?」


二人ともさっきまでは俺に視線を合わせることもしなかったが、白鳥の名前を出した瞬間こちらを向く。


「どうしてですか?」

「さっきライ様って言ってたのが聴こえてな」

「...ライ様はあだ名みたいなもので、普段はライちゃんって呼んでるんです」

「そうか。白鳥について何か知ってるか?あいつは謎が多い」

「例えばー?」

「例えば...理事長とどういう関係なのか」


少しの無言。


「えー、先生ロリコンなの?」

「んなわけねぇだろ!......生徒を守るのが教師の役目だ。あいつも何か大変なことがあるなら助けてやりたいだけだ」

「先生って熱血?」

「ほかの先生にもそう言われるよ」

「ふ~ん、僕たちのこと聞きたいなら先生も何者なのか話しなよ」



お互いが探り合っている...という感じか。子どものクセに、いや、この学院のことだから子どもとはいえ侮ってはいけない、か。



「...普通の教師だ」

「そうなんですか?てっきり先生も裏社会で生きてるのかと思いました」

「先生もってことは親がそうなのか?」

「まさか、この学院はそういうところなんですよね?」

「そうだな。今は普通の教師っていうのは嘘じゃないぞ。元暴走族ってだけだ」

「暴走族?そんなものがあるんですね」

「日本だけの文化だ。それで、お前たちは?」

「僕は普通の一般人だよー」

「わたしは...私もとくには変わらないです。ただ、ちょっと有名な企業の娘ってだけ」



マリアの言葉に少し重みを感じたが、それ以降は淡々と話している。白鳥のことは教えてもくれないらしい。あんまり踏み込まない方が良いか...



「......そうか。仲良いなら白鳥にも授業受けさせて欲しいんだ」

「先生も苦労しますね。言っておきます」

「そーいえば、授業中にお菓子食べて良いの?」

「お前それ、担任に聞くなよ」

「えー。じゃあ自己判断で食べちゃうね?」

「コウ、太るわよ」

「マリアもお菓子好きじゃん」

「あんたほどじゃないわよ」

「あ!行き道で見たクレープ屋あとで行かない?」

「.........付き合ってあげるわ」

「さすがマリア!」



他愛もない話をする二人の数歩前を歩きながら考える。



学院の生徒を守るため、危険なことは早めに摘み取らないといけない。二人から流れる異質な雰囲気には薄々感づいてはいるが...ただ、それが何かは分からない以上深く入り込むのはやめよう。一応生徒だしな。













「せんせぇ、バカじゃなくて良かったねぇ~」

「邪魔になる存在だったら今殺してましたわ」

「マリアたんこわぁ~い」

「私たちの主様にとって邪魔な存在は全部消さないとダメなんですもの」

「そうだねぇ~」

「四ノ宮学院には、どれくらいのバカがいるのかしら...」


後ろでは二人が顔を見合わせ、ニマァッと狂気的な顔で嘲笑っていたことはこの教師には知る由もない。

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