第23話

男の目は半分がにごり、半分はまともな目をしていた。だが、まともな半分の虹彩こうさいも濁りかけていた。


ワタシの姿がえているわけではなさそうだ。


他の松明たいまつが次々に放たれる。


男は躊躇ちゅうちょしていた。


すると、まん中にいたニンゲンがこちらへドシドシやって来る。


「はやくつけろッ!なにをモタモタしているッ!」


まん中にいたニンゲンが、躊躇ちゅうちょする男の松明たいまつを勢いよく取り上げ、有無うむを言わさず火が放たれた。


ゴオォォォォォッ パチッパチッ


不気味な音をたてた赤い火柱は、キレイな黄色い月明かりを飲み込み始める。


森はざわつき、バタバタ走る足音や羽ばたく羽音がしていた。五感に研ぎ澄まされた鳥や動物達は既に逃げる行動をとっていた。


瞬く間に広まる赤い海を見るに、事前に細工がしてあったのだろうとおもえた。用意周到よういしゅうとうさから、このニンゲン達が隅から隅まで汚れている証だとわかる。



森の奥の山ノ神であったかみの小さな家から白煙のような塊が出てくるのが視えた。

山ノ神の怒り狂う苦しみとなげきの悲しみがワタシに伝染つたわってきた。



怒りや不の感情が超越すると、無になるのだと初めて知った。















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