第19話

そのニンゲンは、ホコラまでたどり着くと、黄金色の小さな家をジッと見つめた。花を供え、手を合わせるその姿は一見いっけん普通のニンゲンに見えた。

だが、不の感情が漂い、目はうつろげでシんでいる。


そこは、ケモノのワタシとどことなく似ている気がした。


長いこと手を合わせると、ゆっくりと元来た山道さんどうを戻って行った。


ニンゲンにはワタシノ姿は見えてはいない。この夢とも、現実とも分からぬ、ガンジガラメの走馬灯を不思議と受け止めていた。



空にはまんまるい月がうっすらと浮かんでいた。

まっ赤な明るい太陽は沈み始め、山は漆黒のときへと変貌を遂げようとしていた。



ワタシの今の姿は、ヒヅメのついた山の動物。痛みを感じた後ろ足からはいつの間にか痛みが消えていた。


ワタシの身体ではないのに、少しの疲れと眠気を感じ、ホコラの近くの木の下で身体を休める事にした。

いつの間にやら、眠りについてしまっていた…。



空に浮かんだ月が黄色くれ始めた頃。






ガサガサッ。カサカサッ。



パキッ…


小枝の割れる音がした。

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