第22話 遷辿種
───どんどん距離を取られてる。何ていうか……絶対におかしい。
オトゥリアの脳内はフルに回転をしていた。
それは勿論、知っていた。
けれども。
それだけではない。
オトゥリアを見て直ぐに距離を取れるほどの知能や、低威力とはいえ幼体の首を刎ね飛ばせる程の一撃でかすり傷にしかならない防御力などが、一般的な
───今思うと、
そう思ったオトゥリアは───
「どういう事……??通常じゃないってことは……
そう、口に出して叫んでしまっていた。
その時。
突如として、彼女へと飛んでくる氷塊が、飛んでくる途中で霧散した。
氷塊へと供給されていた魔力が消えたためだ。
同時に。
「シュネル流!〝
飛び出した影は、白銀に輝く剣を手にしていた。
アルウィンが、魔法を放ち続けていた
ひゅっと音を立てながら、逆手で握られた剣が右後方から左前へと振り抜かれる。
その軌跡が───中途で輝きを失った。
途端に、強い衝撃がアルウィンの腕を走り抜ける。
───なっ!?防がれた!?
彼の剣は、ガキンと音を立て、ぐわっと開かれた
バックステップを取りながら、再度一撃を入れようとするのだったが───
「アルウィン!!戻って!」
「……ああ!」
オトゥリアから声を掛けられ、彼女の横へと戻るのだった。
「アルウィン。あの
多分……あの子は遷辿種だよ」
横に戻ったアルウィンに、彼女は感じたことを伝えていた。
すると───
「ほう、我をそこらの同族と違うと見抜きおったか」
「「……!?」」
どこからともなく聞こえるのは、冷たい声だった。
ぞわりと、身の毛のよだつような感覚に陥ったアルウィンとオトゥリアは互いに視線を交わす。
それは、野太い声であり、アルウィンの声とは全く異なるものだった。
「悪くないぞ、人間」
その声は、心做しか彼らの目の前───
彼らの胸中は凍りつくかのような驚きでいっぱいになっていた。冷や汗が背中を伝い、どくんと鳴った心臓が早鐘のように打ち始める。
「……もしかして……喋れるの!?」
オトゥリアは剣を正面に構え、警戒態勢を怠らない。
「そうだ。我は貴様ら人間が遷辿種とかいう存在だ。普通の同族とは少々異なるわな」
「…………」
アルウィンは、
まるで、神々のような存在と対面したかのように。
戦慄した彼は何も出来なかった。
それは、身体の強靭な個体が長い年月を経て独自のホルモンバランスによって特別な成長を辿り、異形と化した個体を指す。
例えば、爪が以上に発達した個体や、魔力増幅器官が強大化したものなど、10万体に1体程度の割合で異常発達した個体が存在すると言われている。
しかしこの
しかし、遷辿種に共通するある種の狂気に満ちたオーラがかの個体を取り巻いていたのは事実だった。
言葉を魔力に乗せて喋ることが出来ていたり、
白い巨体から発せられる、魔力に飛ばされた言霊。
それは、鼓膜に入るよりも前に彼らの身体全身が音を拾っていた。
「最初は、我が臣下が他山の
怒り狂った我は、感情に任せてこの階層の他の山にいた全ての
それでも湧き上がる怒りは収まらず、我は下界層にも赴いて更に同族を殺めたのだ。
その時には、我は他の同族を赤子の手をひねるように殺せる程にまでなっていた。
更に、20層だからとナメてかかってきた貴様らのような間抜けな冒険者共も全て消し去ってやった」
何か圧倒的で、言葉では説明できない
彼は、その場に釘付けにされてしまっていた。
───遷辿個体だということは……確定した。
そしてこの個体は、おそらく無敗。
もしもこの個体を
言葉を発したことには驚いたものの、彼女が考えていたことは変わっていなかった。
遷辿種であろうと
当然、
「さあ、問おう。汝らよ。
今ここで去って生きるか、それとも我に挑むか、選ぶがよい」
「そんなの……決まっているじゃん!!戦うよ!」
オトゥリアは即答していた。
───こんなに強そうだし大変だけど……アルウィンとなら、何でも出来る気がする。それに、もし
彼女が横を見ると、アルウィンは未だに口を開けたままで放心状態のように見えた。
喋った
「……アルウィン!!」
彼女は、鋭く隣にいたアルウィンの名を呼んだ。
すると彼は、はっと目を見開いて彼女を見る。
「悪い。暫く金縛りに遭ったみたいな状態になってたみたいだ……」
「ううん。大丈夫。戦えそう?」
愛しさのあまりに心配する、温かみのある真っ直ぐな瞳に自身が映る姿を見て───アルウィンは「問題ない」と答えるのだった。
「よし。さっきとは作戦を変えるよ。私も距離を詰める」
「……オレも2人で肉薄しに行こうかと思ってたんだ。行くぞッ!」
「うん!!」
アルウィンとオトゥリアは縮地を深く発動させ、一瞬で
オトゥリアの使える、〝
となると、彼女もどうにかして巨体の懐へ入らないといけなくなったのだ。
しかし。
縮地は直線にしか移動することが出来ないというデメリットがある。
幾度となく冒険者を返り討ちにしてきた個体である。
剣士と戦闘を重ねる毎に少しづつ知っていったのだ。
遠くから縮地で駆けてきた攻撃など、簡単に回避出来る上、避けてしまえば何ら恐ろしいことはないのである。
「〝
「はあああああっ!〝
左右から、アルウィンとオトゥリアが同時に剣を振り抜いていた。
「無駄だ!」
障害物を避ける馬のように、軽やかなステップで2人の斬撃を悠々と回避する
その表情は嗤笑に満ちていた。
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