第7話 過去の愛と今の恋
過去の愛と今の恋-1
ビクトリア駅に到着した私たちは混雑する地下鉄に乗り換えて、久しぶりにチャーリング・クロス駅の改札をくぐり抜けた。
「感慨深い。ここで先生が私を待っていてくれたんですよね!」
私は5年前のことを思い出し、ルーカス先生を見上げた。
「そうだね。あの頃はこんな風になるなんて夢にも思ってなかったね」
「私も看護師になるなんて、あのときは考えていませんでしたから」
そしてエスカレーターに乗り、地上に出る。残念ながら本日も快晴で、南東部では
私たちはスーツケースを引きながら、今はもう懐かしくすら感じるチャーリング・クロス病院に向かう。当たり前だが、戦火に見舞われていないロンドンだ。チャーリング・クロス病院は1ヶ月前と変わっていなかった。さっそく私たちは整形外科のナースステーションに向かい、中にモーガン師長の姿を見つけ、私は思わず声を出してしまった。
「モーガン師長! お元気そうで!」
モーガン師長はその声で私に気付き、私に駆け寄ってハグしてくれた。
「それはこっちの台詞よ~! ドーバーは大変だったでしょう? 心配していたんだから。よく戻ってきてくれたよ。助かる!」
「あっちでかなり修行を積みましたよ。まだまだ新人ですが」
ハグを終え、モーガン師長は私を拝む。
「ありがたやありがたや。戦力アップ」
「助っ人ですから助っ人の役割を果たすまでですよ」
「是非是非」
そんな会話を交わしている間もルーカス先生は黙りこくっており、ようやく気が付いたモーガン師長が恐る恐る彼の顔を見上げた。
「えーっと、リンゼン先生もご無事で何より……」
「ああ。ハーレン先生は?」
どうやら彼はモーガン師長の前では、以前の通りの気難しいリンゼン先生に戻ってしまうらしい。
「手術中です。もう少しで終わると思います」
「そうか」
ルーカス先生はナースステーションにスーツケースを置いて、手術室に向かう。一刻も早く恩師の無事を確かめたいらしい。私は彼のあとをついていく。
手術室の前に着くと、ちょうどタイミング良く手術中のライトが消灯して、手術室の両開きの扉が開いてスタッフが出てきた。その中に執刀医のハーレン先生を見つけ、ルーカス先生は涙ぐんだ。
「ハーレン先生……よくご無事で」
ハーレン先生はスタッフが歩く列から抜け、ルーカス先生の前に立つとマスクを取り去って言った。
「ルーカスか。お前こそ無事で本当によかった。運がいいんだな。隣にいるのはアリシア嬢か。話は聞いておるよ。本当に美人になって、しかも医療の道を選んでくれるなんて喜ばしいことだ。ルーカスもさぞかし助けられたことだろう」
「そんな、美人だなんて……」
「いや、どっから見ても美人だよな?」
ハーレン先生が確かめるようにルーカス先生を見て、ルーカス先生は頷いた。
「ええ……学生の時もかわいかったですけど、大人になって美人と言えるようになりましたね」
「そんなこと、ルーカス先生、一言も言ってくれなかったじゃないですか!?」
「真っ向から言うものか! イタリア男じゃあるまいし」
「わしは言っていいのか?」
「お年を召した殿方に言われる分には問題ないです」
私はハーレン先生にそう言うと、やっぱり嬉しくて何度も頷いてしまった。
「ゆっくり話したいが、まだやることは山積みだ。夜に話そう。またな」
ハーレン先生は去って行った。1人でも多くの患者を診ることが、抗ドイツ戦の勝利に繋がると信じて、自分の戦場で戦うしかないのだった。
「お元気そうで良かったですね」
「負傷していたと聞いたけど、大丈夫そうで良かった」
私たちはハーレン先生の背中を見送り、2人で頷きあった。
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