ドイツ空軍の襲来-6

 翌朝は私の方が早く起床し、着替えて1階に降りた。何故そう言い切れるのかというと、未明に彼がトイレに起きて、トイレから戻ってきてからはゲストルームから出ていないことを確認しているからだ。そして明るくなってからようやく、何もなかったと自分に言い聞かせ、私は1階に降りたのだ。


 少ししか眠れなかったから、とても眠い。ルーカス先生はどうなんだろうか。


 私は彼の前で涙してしまった。一方的に、どう彼が受け止めるかも気にせずに、ただ感情的に泣いた。それはある意味、暴力的だったのではないかとまで思ってしまう。私に彼の胸の内が分かるはずもないが、もしかしたら今はいない想い人のことを思い出して苦しんでしまったかもしれない。私の言葉が彼を傷つけたり、イヤな思いをさせてしまったのかもしれないことを思うとただただ申し訳なかった。


 ダイニングに来たくたびれきった私の顔を見て、朝食の準備をしていたマクレガー夫人がキッチンから出てきて私に声を掛けた。


「大丈夫?」


「はは、分かりますか……」


 私が力なく答えると、マクレガー夫人が小さな声で言った。


「そんなに目を腫らして……ちょっと待っててね」


 マクレガー夫人はキッチンに戻ると冷たいタオルを私に手渡した。そして座って目に当てて冷やすよう言い、私が彼女の言うとおりにしていると今度は熱いタオルをくれ、また当てるように言った。熱いタオルに交換すると目の周りの血行が良くなってくる気がした。


「そんな目を先生に見せてはいけませんよ」


 私はそんなに目を腫らしていたのかと思い、苦しくなった。これではなにもなかったと振る舞うことなどできはしない。


 熱いタオルを目に当てているとルーカス先生が1階に降りてきた。


「何してるの?」


 彼は普通の感じで聞いてきた。


「目のマッサージです」


 私が答えると彼は納得したように言った。私が熱いタオルを目から離して彼を見ると、うんうんと頷いていた。


「私もした方がいいかな。手術のときは目が疲れるからね」


「そうしますか?」


 マクレガー夫人がすぐに熱いタオルを持ってきてくれ、ルーカス先生は熱いタオルを目に当てた。


 素直なルーカス先生を見ると少し嬉しくなり、少し元気になった気がした。


「今日の天気は?」


 ルーカス先生が私に聞いてきた。


「晴れているようです」


 私が答えるとタオルを目に当てたまま彼は言った。


「そうか。今日もきっと忙しくなるな。リフレッシュするなら今のうちだ。頼りにしているよ」


「がんばります」


 私はそう言って、彼が見ていないのに大きく頷いた。


 「がんばる」の意味を彼は、「仕事をがんばる」という意味だと捉えたに違いない。確かにそれもある。しかし私は私自身にも「がんばれ」と言っていた。


 彼が私のことを恋愛的な意味で好きでなくても、この先、一緒にいるために、彼の力になるためには、ただただ「がんばる」しかないのだ。

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