⒊二回目の転移
――”2回目“1日目
目を覚ました時、まず確認したのは脇腹と噛み砕かれたはずの左足だった。
しかしながら、脇腹は傷の跡すら見られず、足も太ももの付け根からつま先まで全て揃っている。
五体満足に安心しつつ、あの壮絶な死は悪夢だったのではないかと考える。
と、同時に自分の上の青い空を確認する事で、今回も同じような悪夢である事を認識する。
ただ、前回とは異なり、かなり背の高い、縦にも横にも大きな木々が数多く繁茂している。
まず、目の前が森。
と言うか、木に登って高台から周囲を見渡しても、どこまでも森である。
前回の荒れ地が丸ごと緑化したような土地で、所々に前回同様の岩も見つけることが出来る。
また、森の中には小川が一定範囲に一箇所は確実に流れており、もう渇きと空腹に苦しむ必要は無いだろう。
……気付きたくは無かったが、
それも一体では無く、2体以上の姿が確認できる。
気付きたくなかったし、気付かれたくもなかった。
今も地上から自分を狙っている。
人の頭を丸呑みできそうな口からは涎を垂らし、澱んだ捕食者の目をこちらへ向けている。
(なんでだよ。周りにも食べれる物なら沢山あるだろうが。)
幸いな事に、どうやら奴らは木の上には登れないらしく、空を切っている爪撃もこちらには届かずにいる。
奴らが自分のことを諦めるまでの間、樹上の生活を余儀なくされてしまった。
――2回目転移2日目
前回の転移程では無いものの、樹上での生活は中々の困難が続いていた。
まず、
その代わりとして、森に流れる小川や木の実や葉っぱなどを今は食べている。
前回の転移とは違って、探せば幾らでも食べ物も飲み物も手に入るのだが、何をしようとしても地上を徘徊している奴らに見つからない様にしなければならない。
そもそも、奴らは一体何なんだ?
自分は今まで奴らがどの様な生態をしているのか考えもしなかったし、極力近づきたく無い。
しかし、只ひたすらに地平線を目指して進むだけでは退屈という大敵が己を殺しに来る。
樹上という安全地帯と実質無限に採れる食料と飲水のお蔭で、前回と比べて安全性と快適性が高まった事によって多少の無駄な行動や思考も増えてきた。
それらの影響もあってなのか、ここ最近は危険な
何故自分を襲うのか。
普段食べているモノは?
そもそも、奴らはれっきとした生物なのか。
疑問は底を尽きそうにないので、今は目星をつけた一体を50メートル程離れた場所からずっと追跡している。
そいつは他の奴らよりも体が一回り程小さく、何故か左目の抉れている隻眼であった。奴は片目くん(ちゃん?)と呼ぼう。
まあ、万が一片目くんに見つかったとしても簡単に逃げ出せるだろう。
「それにしても、奴はずっと何か探しているのか?」
同じ場所をグルグルと廻っている。
また、目の前に木々があれば、それを薙ぎ払いつつ歩き続けている。そのせいでミステリーサークルの様に局所的な開けた土地が作られていた。
更には、片目くんは意図してやっている様であり、一度、他の個体がやってきた際はそいつを追い払ってまで廻り続けていた。
その時だった。
もうすぐ日が暮れる頃合いで、自分近場の樹上に仮の拠点でも作ろうとしていた時だった。
唐突にその声は自分の耳に、いや、おそらく世界中に響いた。
『《
構築要素を追加開始――
完了――
新要素
“動物”
“天候”
“魔物”
を追加
――第四段階は200日後となります。』
「は?」
何が起きたのか、一切の理解ができなかった。
今まであの様な声を聞いた事など一度もなかった。
それこそ、最初の転移の時やキメラに殺されたであろう時でも聞いた覚えが無い。
それなのにだ。第三段階?“動物”の追加?“魔物”?
情報量に頭が追いつかない。
とりあえず、予めにキメラの生態観察用として持っていたメモ帳とペン代わりの軽い石の板と木の棒を取り出し、今起きた事をまとめていく。
・呼称片目くん(キメラ)の生態観察をしていた。
・夕方になって唐突に[声]が響いた。
・今の世界はワールドリクリエイト(?)の第三段階で、
先程、動物と天候と魔物(?)が追加されたらしい。
……待てよ?つい先程に動物が追加されたのであれば、キメラは本当に何なんだ?
奴らは”
もう日は暮れて、辺りからはキメラより少し小さい生き物が這って移動する音や鳥の夜鳴き声がする。
いつもならば暗くなった時点で眠りにつくのだが、今日は色々な事が一度に起きすぎて未だ眠れていない。
そもそも、今居る高さはキメラなら届かない場所であるが、新たに追加された動物や“魔物”が届かないとは限らない。
今夜は寝落ちしない様にしなければならない。
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遭難から始まる新世界放浪記 三月男爵 @sangatu_danshaku
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