⒉プロローグ-後半
――転移14日目
あの後、判った事が幾つかあった。
まず、水は自分が心の底から願った時のみに現れるというもの。
そして水だけでなく、食料も同じようにして現れるということである。
これらに関しては、神の力を借りて使う様で癪ではあるし、脱水や極度の空腹などでしか現れないために、必要最低限の量あるのかも怪しい。
が、生きる確率を上げるという目標には貢献する為、使えるものは使う精神でやっていく事にした。
そして最も重要な事が、この水や食料、なんと飲み食いする事で、体力が増えるといったことを基礎とした、身体強化が効果としてあるらしい。
それも、一時的なドーピングの様なものではなく、おそらく永続である。
更には飲食を重ねる毎にそれらの効果が蓄積される様で、自分の身体が着実に人間離れしていることが怖く感じられる。
それでも、生き残らなければならない。
生き残って、元の生活環境に戻る。次こそは怠惰に生きるのでは無く、いつ生活を失っても後悔しない様に生きて行くのだ。
――転移??日目
水を飲み、何の動物のかわからない豚肉に似た肉を喰らう。ある程度体が休んだらなら、ひたすら日が昇る地平線へ歩き続ける。
もうこの世界に来て何日経ったのか覚えていない。
歩く、食べる、飲む、排泄をし、睡眠をする。
それ以外の行動をしなくなった体はもう思考を放棄しかける程に同じ行動ばかり繰り返していた。
元々着ていた衣服の裾は綻び、所々に穴が空き、身体は自分でも信じられない程の体力を得た。
ここ数日は喉の渇きも空腹も眠気さえもなく、自分が既に人間という生物からはかけ離れてしまったことだけが理解できる。
そして今日はとうとう自分以外の動物、クリーチャーと遭遇した。
ソイツは自分が地平線に向かって歩くにつれて増えてきた岩の陰で休んでいる時に突如として現れた。
クリーチャーという表現からわかると思うが、少なくともソイツは人間では無い。
植物でない事も確かであり、熊とも虎とも馬とも言い難い巨体は後ろ足で立ち、先程からこちらを見下ろしている。
戦ったとしても確実に負けるであろう。
相手は獰猛な牙に鋭い爪。
対してこちらは足元に落ちている数個の石しか無い。
かといって、逃げ切れるのかと言われても、あの馬の脚の要素がある、長距離走も得意ですよ感を出す体から逃げきれそうも無い。
普通、マンガなどの展開なら、アイテムで強化された主人公が現れた強敵を颯爽と倒すであろう。
が、コイツは「水」や「食料」と同じように現れたのである。
ならば、性悪な神によって、自分と同じように身体強化がされてあって当然である。
......完全な詰みであった。
そして今、こう思考している間にも奴は前足の爪を振り翳して攻撃してきている。
避けるだけならばギリギリ間に合った。
しかし、そこから攻撃に繋げようと石を拾う隙を見せた途端に奴は猛スピードで近づいて牙で噛み砕こうとしてくる。
それもまた寸前の所迄には避けれるのであるが、猛攻故に回避しか出来ない。
そして、ずっと同じ様な回避が続く訳もなく、とうとうキメラ野郎の爪が右脇腹に食い込んだ。
激痛が体を支配し、それ以上の行動が取る事が難しくなる。
それでも動かない体に鞭打って、無理矢理に次の爪撃を回避する事に成功する。
だがそこで体を捻り過ぎたせいか、単純な失血か、地に伏してしまった。
奴は倒れた自分を見て、気味悪く口角を上げるとこちらに近づいて来た。
そして...
「あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙!!」
ゴキグチュリという聞き慣れたく無い咀嚼音と共に爪撃を喰らった時以上の激痛が全身を走る。
あまりの激痛に自分の意識はそこで途絶えた。
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