第10話 キス

お風呂から上がった優斗のパジャマの着替えを手伝う。


そして、眠くなってきている優斗を私は崇斗の部屋に連れて行った。崇斗の使っていたベッドはもう無く、泊まりに来た時は敷布団で対応されるようになった。


お風呂に入っている間に準備しておいた布団。

子供布団に優斗を寝かせ、私は隣で添い寝をする。


スヤスヤと寝息をたてる優斗を見ていると微笑ましくなる。


憧れた事がある場面。二年前に諦めた夢。

私はきっと、結婚をしないだろうから…望めない夢。



そこに寝る準備を整えた崇斗が部屋に入ってきた。


「あれ?もう優斗寝たの?」

「あ、うん、早かったよ」


私は起き上がりその場に座ったまま返事をする。落ち込んでたのを気付かれないように。


「そっか。あ、親父も帰って来たよ」

「もう、そんな時間?」


おじさんは21時前にいつも帰宅する。大体私はその時間帯に家に戻る事が多い。


崇斗は自分の布団に座ると私の方を見た。


「いつもサンキュー、芽衣」


改めてお礼を言われ、照れる私。考えてみたら崇斗と二人きりになるのは久しぶりだった。


「気にしないで。楽しいから」


崇斗は私を見て、力なく微笑んだ。


「芽衣」

「?」


私の名前を呼ぶと、崇斗は私の肩に寄りかかって来た。


「俺の事も少しだけで良いから、ギュッとしてくれない?」


元気のない疲れた声に私は戸惑いを感じた。こんな弱い崇斗を見たことがない。


私は優しく崇斗の背中に腕を回した。甘えられるのが嬉しい。甘えてもらえるなんて、思わなかったから。


「どうかした?」

「ん…少し…疲れただけ…」


崇斗の髪の毛に触れる。頭を『良い子』するように撫でる私。

まるで今の崇斗は甘えてくる子供みたいだった。


「良い匂い…」

「…何か、それ恥ずかしいよ…」


私は恥ずかしくなり赤面する。崇斗は顔を上げると私の事をジッと見つめてきた。


「崇斗?」

「…キス…して良い?」


突然の申し出に私は戸惑った。


「…奥さんがいるのに…ダメでしょ。帰って奥さんとしなよ」


私はその言葉を笑って誤魔化す。きっと瞬間的な気の迷いだと思ったのだ。


「アイツとは…二年半近くしてない。…キスも…セックスも」

「…え?…二年半?」


私はその言葉に違和感を抱いた。そして優斗の方に視線を向ける。


「え?二年半?」


もう一度繰り返す。それって…変じゃない? 私は更に戸惑う。


「芽依…したい」

「崇…斗…んっ」


崇斗の唇が重なる。あ、ダメだ…これ…止まらなくなる。

深くなるキスを受け入れる。拒みたくない…崇斗が欲しい…。


だけど…。


「これ以上は…ダメだよ」


やっぱり…ダメだよ。優斗がいるのに、横にいるのに、無理。


「悪い…ごめん…」

「謝らないでよ…」

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