第5話 陽斗《はると》
そして時間は容赦なく進む。
隣の家にはもう、崇斗はいない。
顔を合わせるのが辛くて、避けていた日々。最後の日も結局会っていない。
多分、こうして私達は更に遠い存在になるのだと思う。それでこの気持ちに整理がつくのなら、それで良いと思った。
「何だか寂しくて」
崇斗の母親、
菜々子おばさんと私の母は昔から仲が良い。時々こうしてお茶の時間を設けている。
「崇ちゃんの結婚の事?確かに急だったものねぇ」
母が苦笑いをする。
そんな二人の会話をテレビ見ながら耳にする。
テレビの内容なんて全然、頭に入ってこないけど…何事もなかったように過ごす為に必要だった。
「まさか、あの崇斗が出来ちゃった結婚するなんて思わないじゃない?」
まったくだ。私も同意見。
小学生までは優等生タイプで素直な男の子だった。中学生で少し男っぽくなったけど、それでも従順だった。
高校生になって環境の影響で多少、ヤンチャっぽくなったけど根は真面目なので行き過ぎた行動はしていなかった。
元々、真面目で踏み外した行動をする事のなかった崇斗だから意外で仕方がない。
まぁ…男女の秘め事は誘惑が多いから…それに負けたということなんだろうけど。
「
「そうね、確かに」
母が頷くのと同時に私も頷いてしまう。
菜々子おばさんの言う『陽斗』とは崇斗の一つ下の弟で昔からの問題児。
崇斗とは対照的で小学校時代はガキ大将。中学時代には常に反抗期。高校時代で不良の仲間入り。
今は時々、家に戻ってくるけど常に彼女と同棲している状態。私も最近は会っていない。
崇斗とは年子のせいか、双子の様に容姿が似ている。知らない人は間違える事も多々あったりする。それくらいソックリな外見だ。
私も遠くから見ると直ぐには気付けない。しかも声まで似ていたりするから、インターホンとか電話だと気付きにくい。
ジックリ向き合えば違うのは一目瞭然なんだけどね。
おばさんは溜息をついた。
「陽斗もそろそろ落ち着いて欲しいものよね」
私はおばさんと目が合った。
「芽衣ちゃん、陽斗と結婚しない?」
「え?は?」
突然の申し出に私は怪訝そうな表情を見せる。
「陽斗を転がせる女の子は芽衣ちゃんぐらいの様な気がして」
「えぇ~…嫌だ…」
私は精一杯の拒否をする。
「だって芽衣ちゃんがお嫁さんだったら、おばさん嬉しいのに~」
「陽斗だけは無理!」
おばさんの言葉から逃げるように、リビングから出る私。階段を上がって自分の部屋に戻ると大きく溜息をついた。
親に陽斗の話をされると居心地が悪い。
私のこれまでの人生の中で一番振り返りたくない過去の中心人物が陽斗なのだ。
あの時の事を思い出すと自己嫌悪に陥る。
「何で…しちゃったかなぁ…私」
ボソリと呟き、その場で座り込む。そして窓の外、崇斗の部屋をボンヤリと眺めていた。
交際人数ゼロだけど経験人数一人。
つまり…陽斗がその相手なのだ。
成人式の後に羽目を外してしまいお酒を泥酔するまで飲んでしまった私は…崇斗にソックリな陽斗に絡んでしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます