第3話 夢

ボンヤリとした空間。全てにかすみがかかっている感じというのか…。


「芽衣」


私を呼ぶ声がする。その声は私をドキドキさせる。


「芽衣」


振り返ると、そこには中学生の崇斗がいた。

成長途中の崇斗はまだ子供っぽさが残っていて懐かしく感じる。


そう、これは夢…私が見ている夢…。


「芽衣」


崇斗は優しく私に笑いかけてくれる。


これは願望なのだ。


現実では考えられない事が起きるのが夢。実際に今まで、こんな風に笑いかけてもらった記憶はない。


「ほら、行くぞ」


中学生の崇斗が私と手を繋ぎ歩き出す。気が付けば風景は学校の廊下になっていた。


私達の母校。

その廊下を二人、手を繋いで走る。現実にはなかった出来事。


「崇斗どこに行くの?」

「こっちに鬼に見つからない場所あるから隠れるぞ」

「え?」


私は後ろを走りながら振り返る。遠くから数える声がする。どうやら私達は『かくれんぼ』をしているらしい。


楽しそうに私を引っ張り、隠れる場所に向かう崇斗。

崇斗は体育館の前に来ると、扉を開け私を中に誘導して入った。


「奥に行って」


言われるまま、体育館の奥に進み用具室に身を隠す。


誰もいない体育館。


崇斗は扉の近くで外の様子を窺っている。会話がなくても幸せな時間。

ただ一緒にいられるだけで幸せを感じた。


「誰か来た」


そう言って、崇斗が慌てて私の所に来ると引っ張り抱き寄せ、跳び箱の陰に隠れる。

私は崇斗の腕の中、胸に顔を埋める。ドキドキが止まらない。


知るハズのない温もりを何故かリアルに感じる。愛しくて堪らない。


「崇斗…」

「シッ…」


自分の唇に指をあてる崇斗。

目の前に崇斗の顔があった。様子を伺い、確認する。


「…行った…かな?」


崇斗の視線が私の方を向くと、思い切り目が合ってしまう。視線を外すことが出来ず、ジッと見つめる私。


「芽依?」

「…好き…」


泣きそうな私の頬に触れると、崇斗は顔を寄せてきた。

私の唇に崇斗の唇が触れる。私は瞳を閉じてその感触を実感する。

優しく触れる唇は少し冷たくて、でも柔らかいものだった。


嬉しくて、涙が零れる。幸せで心が満たされていた。


このまま…夢から目覚めたくない…。



「崇斗が…好き」

「俺もだよ…」


愛してる…崇斗…。ずっと、ずっと。

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