第2話 報告

「俺、結婚することになったから」



幼馴染の私への結婚報告。

夏真っ盛りの事だった。


実家暮らしの私達は20歳を過ぎても時々顔を合わせる。


幼馴染のこの男…

緑川みどりかわ崇斗たかとは高校卒業後、専門学校を卒業し現在は社会人。

彼女はバイト先の後輩で2年ほど交際していた。

時々、彼女が家に来ている事があったので、私も多少の面識があった。


「結婚?」

「そう、子供できたから」


私は呆然とした。

あまりのショックで言葉が上手く出ない。口を魚のようにパクパクさせてしまう。


「一応、報告したからな」


一言報告だけし、去ろうとする崇斗に咄嗟に出た言葉。


「バカじゃないの?アンタ」


その言葉は私の精一杯だった。



崇斗が結婚してしまえば、私には何の希望もない。

今までは少しの可能性を期待して片思いをしてきていた。いつかは私の存在を気にかけてもらえるかも知れない。

彼女と破局するかもしれない…と、淡い期待を持っていたのだ。


だからきっと、バチが当たったんだ。

他人ひとの不幸を望んでしまった私だから。


「バカよ」


私は自分に向かって呟いた。

自分がこれまで大事にしていた関係。それがこの様な結果に終わったのだ。

今まで自分の気持ちを抑えていた事に後悔をする。今更後悔をしても遅いのだが。


「確かに軽率かもしれないけど、バカはないだろ」


崇斗の声を無視し、泣き出したい気持ちを抑え、私は家の中に入った。


芽衣めい?」


崇斗の声…大人な男の声だった。幼い頃とは違う。

少しずつの変化を私は知っているのに…遠い存在の様に感じた。

大人な崇斗なんて、私は知らないから。幼馴染の崇斗しか知らない。


(苦しい…苦しいよ…崇斗…)


家に入ると自分の部屋に駆け込む。一人になりたかったのだ。


扉を閉めると、私はベッドに倒れ込む。

大泣きするわけでもなく、ただ枕を抱えそのまま固まる。

何も考えたくなかった。無心で心を落ち着かせたかった。だから、ただジッとした。


考えない様にしても悲しい気持ちは押し寄せるから、涙が零れる。涙が零れると、その原因を思い出す。


「う…」


結局、私は泣かずにはいられないのだ。


窓が開いていたので、声を殺してヒッソリと私は泣き続けた。

大きな声で泣き叫びたい。私は崇斗が好きなんだと叫びたい。


今更…遅すぎるよ、私。


苦しくて、切なくて、悲しくて…吐きそう。

もどかしくて…ツラい。


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