Natsuya 2.competition


俺の胸に顔を埋めたまま、菜々子が呟いた。


「ナツ……話があるの」

「うん」


「あのね……」

「うん」


「あの…わたしね……」

「ああ」


菜々子のすべすべした髪をゆっくりなでる。


「イギ…イギリスに……行きたいの」

「行って来いよ。菜々子」


「え?」


菜々子は顔をぱっとあげた。


「俺、相当、怒ってるからな? なんでいままで言わなかった? 俺がお前のこと離したくないからって、自分の近くにただ縛りつけておくような、器のちっちぇー男だと思ってたのかよ?」


菜々子の頬に一筋涙が流れた。


「わ……別れる?」

「バカこいてんじゃねぇよ」


マジでかなりムッとした俺は、菜々子の頭をそこそこの力でぱかんとたたいてしまった。


「痛いよ」

「さすがに痛く叩いてんだよ! あんまりふざけたことぬかすな!」

「ナツ……」


菜々子はまた俺の胸に顔をうずめた。



「今日、告白されたよ。菜々子の親友二人に。菜々子にイギリスの交換留学の話がきてて、お前がそれ断ったって。高橋教授のとこに行ってきたからな。明日まで待ってくれる」


「………」


「行きたいんだろ?」


「ナツと……別れるのがこわい。そう簡単に帰れる距離じゃないよ。三年のうちに何回会えるんだろう」


「会いに行く。俺もバイトするから。これからは、ずっと菜々子といられるように、将来のこともちゃんと考える」


「ホント?」

「ほんと」


俺は菜々子のおでこに自分のおでこをくっつけて、目を見て言い聞かせるように呟いた。


「一緒に生きてくんだろ。一生のうちの何年かなんてすぐだって。俺たちは糸じゃなくてロープで繋がれてるらしいぞ?」


「え? なにそれ?」

「百合先輩が言ってた」


「あの子、ちょっと変わってるから」

「ちょっとじゃねーって」


俺は、菜々子を柔らかく押し倒した。


「俺は菜々子がいい」

「ありがとう」

「俺に隠してたバツ! 今日は最低三回!」


菜々子の上にのしかかる。


「無理っ! 無理無理無理っ!」

「逃げるなよこらっ!」


俺たちは笑いながらベッドの上を転げまわった。

ああ。本当に菜々子が好きだと思う。


泉のように彼女を愛おしいと思う気持ちが湧き出てきて、とめられない。


離れて暮らして不安で不安でたまらないのはきっと俺だけなんだろうな。 


だって菜々子には勉強がある。

目的がある。


でも今の俺には菜々子以外、何もない。


それでも、好きな女の夢を後押しすることもできない最低な男にだけはなりたくないと、マジで思った。


ここで、行くな、なんていうなら、それはもう菜々子とつき合う資格がないということだ。


競争だ菜々子。

俺だけの競争。


お前が向こうの大学を卒業するのが早いか、俺が、どう生きていくのかを見つけるのが早いか。


俺たちは互いの皮膚をつきやぶるほどの激しさで、強く強く抱きしめあった。










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