第8話 チャーハンとラーメン


十七時ごじ過ぎか。

 もうドッペルゲンガーは現れないかもな」


裏門は正門と比べて人の出入りが少なく、聞き込みも捗らない。


二時間ほど張り込んだが、ドッペルゲンガーのみならず妙子たえこを知る人間にも会えなかった。


まだ調査二日目。


「今日は裏門こっちには来なかった」と割り切ってここを離れる事にした。


ドッペルゲンガーなんていずれは会える。


そんな予感からか、肩の力も抜けていた。


一応昨日張り込んだ正門の方もチラッと見て、人がいたら軽く聞き込みでもするか。




「あーおじさんまた来てる!」


「おじさんじゃねえ、

 まだ若けえっつーの」


正門に移動してすぐ、昨日話したノリの軽い少女たちと遭遇した。


昨日より二時間も遅いお帰りのようだ。


「なんでまたいるの?

 おじさんもしかして妙子のストーカー?」

「うそー!キモーい!!」


勝手に人を犯罪者扱いしてゲラゲラ笑っている。


「ストーカーじゃねえし、おじさんじゃねえし、キモくねーだろ俺は!

 キモくないよなぁ?」


「感じ方は人によります」


トキに否定してもらって自尊心を保とうとしたが、冷静にあしらわれて悲しい気持ちになった。


キモくねえのに、俺……。


「ルパーン、妙子今日も来てないよ学校」

「妙子どーしたの?

 ルパン何か知ってる?」


ルパンじゃねえ。次元だ。


次元じゃねえ。工藤俊作だ。


唇をひん曲げながらそれらを全て飲み込んで「知らん。こっちが聞きたい」と不機嫌そうに返すと、「拗ねてるー!」と言ってまた爆笑された。


若い子との会話はこれだから面倒臭せえ。


適当にあしらって必要な情報を聞き出すか。


「オカ研には?

 昨日みたいに部室来てないの?」


「知らなーい。

 うちらオカ研じゃねーし」


「ちょっと悪いんだけど、

 部室にいないか見てきてくれる?」


「えー、マジ?ダッル!」

「もう誰もいないって」


……確かに、誰もいないような気がする。


昨日と同額の五千円を請求されるのもなんだかなぁ、という感じなので今日のところは諦めよう。


女子高生二人組はゲラゲラ大声で喋りながら去って行った。


その後、俺たちは商店街方面に向かって歩きながら妙子に似た人間を捜し歩いた。


背格好が似ている少女、同じ学校の制服を着た子、不審な挙動をしている人物など、注視すべき点が多くて大変である。


しかしここも空振り。


今日は全く当たりの無いまま一日が終わってしまった。


たまたま初日に調子が良かっただけ。


二日目なんだ。こんな日もあるさ。




ところがここから二週間、一切の手がかりが掴めなくなった。


ドッペルゲンガーは学校に現れず、また周囲の人間に目撃される事も無い。


塾もあたったが、やはりドッペルゲンガーらしき存在を見かけた人間はいなかった。


好調の予感はなんだったのか。


依頼があった日から十五日。


初日に最接近ニアミスしていただけに、好機を逃した感が否めない。


事務所にいる方の妙子はすっかり今の生活に馴染み、俺たちがいない間もくつろいでいるらしく毎日楽しそうだ。


夕食の用意をしてくれるのは助かるのだが(朝は寝ているので作らない)、とにかくチャーハンかラーメンが出てくる頻度が多い。


毎日どっちかが必ず出てくる。食材の調達要求も、チャーハンとラーメン。


料理りょうりきって、そんなにチャーハンとラーメンばっか作るもんなのか?


作ってもらっておいて文句なんて、口にはしないけどさ。

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