第2話 やらしい話
「いるかいないかわからないものを
退治します、と保証は出来ない」
そう言ってお断りしようとすると、
「三百万あります」
思わず目を剥いた。
高校生には似つかわしくない額だ。
「こんな金どこで……」
「おじいちゃんの遺産です。
うち、両親は大したことないけど
祖父が資産家だったので。
もちろん、これはほんの一部です」
ええ……。この町の人間はどいつもこいつも羽振りがいい。
それにあやかって俺も
「まずは二百万円。
これで一ヶ月間調査をお願いします。
ドッペルゲンガーが見つからなくてもお支払いします。
もしその間にドッペルゲンガーを
殺してくれたら、残りの百万も差し上げます」
「先生……この子、三百万で人殺しさせる気ですよ」
助手のトキが呆れたようにため息を吐く。
が、その顔はどこか微笑んでいるようにも見えた。
ただでさえ表情から感情が読みづらい子なので、多分だけど。
三百万。
殺人の相場なんてわからんが、人生賭けるには安くないか?
「人じゃなくてドッペルゲンガーです!」
妙子はその説に自信満々といった様子だ。
じゃあ、ターゲットが人でないなら三百万は適正なのか?
その疑問に答えがあるとは思えないが、殺人を一旦脇に置いて考えると、町内で完結する人探しに一ヶ月二百万は悪くない。
……しかし高校生からこんな大金をせしめていいのだろうか。
「お金の価値なんて人によって違うんだから
本人がいいならいいんですよ。
こっちは仕事なんですから」
優秀な助手が背中を押す。
郷に入っては郷に従え。
この町で商売していく以上、この町の人間の価値観に合わせていくべきだろう。
「オーケー、とりあえず『人探し』は受けよう。
そいつを殺すかどうか、『人殺し』はまた別の話だ」
「それでいいですよ。
あ、それともう一つ」
妙子は人差し指を立てた手をこちらの顔面に突き付けてきた。
「調査のあいだ自宅で待ってるのは不安なのであたし、
しばらくここでお世話になります!」
「…はあっ!?
それってここに住ませてくれって事か!?」
後出しでそんな重要な話を持ってこられても。
「だってうち親と仲悪いし、
家にいたら絶対『学校行け』ってつまみ出されますもん。
でも外にいるときにドッペルゲンガーに出くわしたら
今度こそ死んじゃうかもしれないじゃないですか。
だから、調査が終わるまではここで
二百万は宿泊費も込みの金額というわけか。
「しかしなぁ…。この事務所は俺の住居の一部にもなってるわけだよ。
下心があるわけじゃないが、そんなところに寝泊まりするのは
普通は抵抗があったりするもんじゃないか?」
「全然気にしません」
そっちがそうでもさぁ……。
なんだか面倒な要素が増えてきた。
「トキ、どう思う?」
一応、助手のお伺いを立てる。
「その子がよければいいんじゃないですか?
先生に限って未成年に手を出すとも思えませんし」
「ありがとうございます!
お買い物は行けないけど、炊事洗濯は任せてください!」
トキのお墨付きをもらい妙子はすっかりその気になっているようだが、問題はまだ残っている。
「これ、保護者の許可が無いと俺捕まるだろ」
「
ご指摘はごもっとも。しかしそうなると次の問題が発生する。
「俺はどこで寝りゃいいんだ?」
寝室は一つ、ベッドも一つ。枕を並べるワケにはいかない。
「うち部屋余ってますけど」
「……お前んちはやだ」
トキのご厚意はありがたいのだが、彼女の家にはまた別の問題があるため丁重にお断りしておいた。
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