第3話 テラフヒト


俺、ラ フヒトはこのホ苑町ソノチョウで私立探偵をしている。


元々は都内でしがない販売員をしていたのだが知人の勧めでこの町に引っ越し、探偵業を始める事になった。


探偵と言っても名推理でトリックを暴いたり怪盗を捕まえたりなんて事はさせてもらえない。


人探しや異変の調査といった探偵それらしい仕事のみならず、清掃の手伝いや荷物の運搬など何でも屋のような仕事もやらされている。


ほんの一年前から始めたばかりの新米探偵なのだが、なんとか食えてるどころか依頼は尽きない。


何故ならこの町はゆがんでいるから。


歪んだ町に住む、歪んだ人々。


この町には俺のような人間が必要なのだ。


“よそ者”である、この俺が。




鏡の前で意気揚々と外出の支度をする。


探偵業をしていて、この瞬間に一番心躍らせているかもしれない。


黒のスーツにカラーシャツ。


ソフト帽とサングラスは敬愛する私立探偵、工藤俊作を意識している。


それに大学の後輩に貰ったヴィヴィアンのネクタイを締めるのが俺の一張羅だ。


コスプレだとも言われるが、ドラマに憧れて探偵になったんだからまず形から入る事が大切なのだ。


「キまってるだろ?」


振り返り、助手のトキに尋ねる。


「いつも通りです」


トキは眉一つ動かさず、無関心に言い放った。


「かっこいい!

 どこからどう見ても探偵にしか見えませんよ!」


トキの背後から妙子が顔を覗かせる。


どこからどう見ても探偵なのはある意味最も不適切な格好なのだが、俺は誉め言葉として受け取った。


「先生、何かアテはあるんですか?」


「とりあえず、目撃証言からだな。

 依頼人の周辺…学校辺りから当たってみるか」


憧れの工藤俊作や濱マイクのような切れ者と違い、悲しいかな俺は頭が悪い。


足を使って情報を集め、頼りになる知り合いの力を借りる。


それが俺の解決パターン。


名探偵には程遠い。


「用意出来たら行くぞ!」


「先生。

 忘れ物」


トキは台所から持ってきた包丁をこちらに差し出した。


「……いや、殺さんて」

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