第4話 この平和な、イカレた町
事務所に依頼人を一人残し、俺とトキはドッペルゲンガーの調査に出掛けた。
「そっかー、殺さないのかァ」
俺の後をついて歩きながら、トキは淡々と物騒な事を呟く。
「しかし先生、ご存じですか?
ホ
二体の身元不明遺体が発見されているんですよ」
……マジかよ。大問題じゃねえか。
「それ、もっと報道されててもよくないか?
全然テレビでやってないような……」
「ホ苑町ですから」
そう言われてしまうと納得してしまうところが、
「一体くらい増えても、案外バレないものかもしれないですよ」
「いや尚更まずいだろ!
身元不明遺体を増やして逮捕されたら、
前の二件も俺のせいにされちまうかもしれねーじゃねえか!!」
「それはリスクリターンをどう捉えるかの話になってきますね。
前二件の犯人に
リスクリターンは最悪だろ。たった百万のために。
日本の警察は馬鹿じゃないが、ホ苑町の警察はイカレてる。
だから本当についでで罪を擦り付けられる可能性がある。
……それにしてもこいつ、随分“殺し”に前向きだな。
「お前、まさか自分が殺したいなんて言うんじゃないだろうな」
まさかまさかそんな事はないだろう、という体裁を整えつつも、内心ビビりながら冗談っぽく問い掛ける。
「経験無いですからね。
興味はありますよ。
でも人殺しなんてつまんないからやめとけって
おじいちゃんが言うので、とりあえずやりません」
「…そうだな、つまんないならやめとけ」
……こいつの家庭も異常すぎて返答に困る。
ホ
現代の日本とは明らかに異質で異常な町。
例を挙げればキリがないが、まず携帯電話が一切使えない事。
このご時世にありえないだろ!と思われるだろう。
俺だってそう思う。
だけどこの町の住人は当然のようにその状況を受け入れ、生活している。
通話もネットも有線がこの町の常識。何の疑問も持たれていない。
ガキの頃から当たり前に
そして次々と起こる心霊、怪奇、超常現象の数々。
にもかかわらず、町の住人はケロッとしている。
異常であることを認識していないのだ。
この町では異常が平常。
だから行方不明者が出ても人が死んでも、当事者以外は無関心。
怪異に悩む依頼人を、町の人間は笑い飛ばす。
「勘違いだ」。「夢でも見たんだろう」。「よくあることさ」。
警察も同じ。相談に行っても相手にしてもらえない。
しかし依頼人も、昨日までは彼らと同じく無関心だったのだ。
自分の身に降りかかった時に初めてコトの重大さに気付き、周囲を頼る。
……こういう説明をすると、この町の人だけじゃない、日本中どこでも同じだと感じるかもしれない。
だが世の中はゼロかイチかではない。
イチもニもジュウもヒャクもある。
この町の人間は、その度合いが振り切っているってワケだ。
彼らは言うだろう。
「ここは平和な町だ」と。
俺はよそ者だから彼らのように冷静ではいられない。
おかしい事はおかしいと気付いてしまう。気付けてしまう。
だから成立している。
だから探偵でいられる。
被害者に寄り添う事が出来る。
「実際、先生は凄いですよ。
この町で自分を見失わず、それでいて馴染む事ができてる。
普通外から来た人はこの異常な町にうんざりして出ていくか、
逆に溶け込んで“この町の人間”になっちゃいますからね」
助手のトキはホ苑町の人間だが、比較的“歪み”に気付ける方だ。
何故なら……。
……ちょっと説明するのも憚られるが。
彼女は仙人の孫なのだ。
この子の祖父、ホ苑町の仙人(周りが勝手に呼んでいるだけで俗人なのだが)
とにかく、祖父の神通力の片鱗が彼女にも宿っているようなのだ。
なんの特徴も無い元販売員の俺と、仙人の孫。
そんなコンビでウチの探偵事務所は成り立っている。
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