第6話:変わらない階段と写真
祖父母には三人の娘がいた。
長女の私の母より、少し年の離れた三女の私の叔母。
叔母は、母や次女の叔母より、少しだけ長く、祖父母と三人で暮らしていた。
叔母の結婚式の日。
少しお洒落をした私は、礼服に身を固めた祖父と手を繋ぎ、結婚式場へ向かった。
朝の静かな三浦海岸駅、上り線のホーム階段、大きなあたたかい手。
階段を上る途中、
「さぁちゃんの結婚式のときは、おじいちゃん、娘よを歌ってやるからな。」
と祖父が言った。
「むすめよ?」
「芦屋雁之助の娘よ、な。」
幼い私にはわからない歌だったし、祖父が歌う姿を見たこともなかった。
「わたしのおじいちゃん」は、「叔母のお父さん」だものね、と今ならわかる。
一番目でも、二番目でも、三番目でも、
三回とも、人知れず、娘を手放すつらい気持ちがあったのだろう。
「祖父の歌う娘よ」を聴くことはできないまま、40年近い月日が過ぎた。
三浦海岸の家からの帰り道、今も変わらない上り線のホーム階段を上るたびに、祖父を思い出す。
嫁に行く日が 来なけりゃいいと
おとこ親なら 誰でも思う
早いもんだね 二十才を過ぎて
今日はお前の花嫁姿
贈る言葉は ないけれど、風邪をひかずに 達者で暮らせ
仏壇に飾られた祖父の写真は、いつまでも若いままだった。
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