第41話 病院から始まる現代生活 Ⅱ



 メールの内容を要約すると……。


『勇者アルトよ。エリシア・モンテローズは頂いた。早く助けにこないと……俺が先に食べちゃうよ?』


 ここにきて、魔王を半ばほったらかしにしていたツケが回ってきてしまった。


 勇者を差し置いてエリシアを汚すことは断じて許さない。一番最初にヤルのは……俺だ。


 だが、にわかに信じ難いのも事実である。元居た世界に転生した上に、メインヒロインであるエリシアと魔王までもが来てるということ。


 メールを確認し終えた俺は、ベッドから降りて、フラフラとする脚を動かしながら窓のカーテンを開けてみた。


 東京都内の南側に位置する、とある病院から見渡した景色は……女、女、女、何処を見渡しても女性の数が半端じゃない。ちらほら男性もいるのだが、その数は圧倒的に少数である。


 俺は素朴な疑問を医師に投げかけた。


「日本で何が起きてるんですか?」

『君が昏睡状態の間に色んなことが起きてね、今や日本は魔王の支配下にあるんだよ』

「えぇぇ、ディルナッド戦記の……あの魔王ですか?」

『ああ。魔王と名乗る男がばら撒いたウイルスにより、大半の男性が眠らされたんだ』


 ウイルスとか言われてもピンとこないが、男性だけを眠らせているところから、魔王が世の女性を独り占めしたいが為に起こした行動だと予想できる。


 すると医師は、あるSNSの呟きを見せてくれた。


<俺は異世界より蘇った。今日から日本は俺様のものだ。悪いが世の男性には眠ってもらう。悪く思わないでくれ>


 とまあ、この様な投稿がなされた次の日、次々と男性が昏睡状態に陥っていったそうだ。


 だがこのアカウント、どこかで見覚えがあるような、ないような…………あっ、思い出した。


 俺がゲームのデータを消されたショックで死んだ時、SNS上で攻略情報を呟いていた謎の人物は『魔王』というアカウント名を使っていた。俺以外で裏ワザを使って『密会』を取得していたのは彼だけである。奴は魔王に転生を果たし、美少女百人斬りを達成していたのだ。


 その後、現実世界に戻った魔王が好き勝手に女性と密会を開催して……犯しているらしい。


 俺が異世界で好き勝手やっている間に、魔王も好き勝手やっていたという事実、訳が分からん。


 だが俺はまだ女性に手を出していない。多少手を出されかけたことはあるが、大口を叩いたところで純潔のステータスは依然として変わっていないのだ。


「異世界だけでは飽き足らず、現実世界にまで手を出すとは……許せん!」

『君はもしや、噂の勇者なのか?』

「はい……まあ一応」

『ついにこの時がきたか、我々は一年間待っていたんだ。偉大なる勇者の降臨を……』

「いや、小森拓郎なんですが……」

『さあ、魔王を倒して平和を取り戻しましょう!』


 結局また魔王狩りに勤しまないといけないとは……だがしかし、エリシアは助けないと気が済まないから、協力せざるを得ないな。


「分かりました。やってみますよ」

『健闘を祈る』


 突如として告げられた衝撃の事実に頭が混乱しているが、もう少し日本の状態をこの目で確かめる必要があるだろう。


『拓ちゃん、気を付けていってらっしゃい』

『拓郎、お前ならできるぞ。なんせ俺の息子なんだからな』

『……』


 病室内にいる家族と医師に挨拶を交わして部屋を出た。


 院内は静まり返っている。他の病室を開けていったが、男性が大量に寝かされていた。息はあるみたいだが、まるで死んでいるかのように微動だにしない。


 それからエントランスに行って外に出てみた。一見普通の夜の街で、仕事帰りと思われる人間が見受けられるが、やっぱり女性がかなりの数を占めている。


 行き交う人の群れをボーっと眺めていると、見覚えのある人物に呼びかけられた。


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