第37話 火山地帯の攻防 Ⅲ



 今日は寝覚めが最高に良い。

 エリシアと星空を眺めながら、超至近距離でくっ付いていたからだ。

 事故でも何でもなく、故意的に近付いてきてくれたのは素直に嬉しい。

 お陰様で気持ちの良い朝を迎えることが出来た。


「気合いが入るぜー!!」

「朝から騒々しいですわね。一体何事ですの?」

「バニラよ、お前にこの感情は分からないだろうさ」

「意味不明ですわね」


 夢心地な気分から抜け出せないでいるが、モチベーションは非常に高まっている。


 これから火山地帯へと足を踏み入れる訳だが、体力も全快してクーラードリンクの効果も残っている。

 戦いの準備は万端だ。



 ◇



 山頂からはマグマが吹き出している。

 ドロドロと流れる溶岩がすぐ近くに見えており、凄まじい熱気に包まれていた。


「凄い熱さですね」

「お化粧が崩れてしまいますわ」

「クーラードリンクがなかったら今頃溶けてるかもな」


 山頂に近付くに連れて息苦しさが増してくる。

 適度な水分補給をしなければ倒れてしまうだろう。

 植物の生存を許さない地獄の環境下に不安の色を隠しきれないでいた。


 しばらく道なりに進んでいると、ワイバーンが上空から襲ってきた。

 山岳地帯に生息する小型の竜の一種である。

 非常に交戦的なタイプの魔物で人を見付けると容赦なく攻撃を仕掛けてくるのだ。


「調教開始!!」


「ギシャァァァァァっ!!!」


「エリシア、ここは任せた!」

「皆を守ります 聖なる盾セイントウォール!!


 光を纏った巨大な盾が現れ、俺たち三人をワイバーンの攻撃から守っている。

 何度も爪を振りかざしてはいるが、堅牢な盾が崩れることはない。


「バニラいけるか?」

「ええ、攻撃はわたくしに任せなさい」

「了解!」

「可愛いワーウルフちゃん、出てきなさい!」


 足元に魔法陣が描かれ、中から狼型の魔物が出現した。

 毛を逆立てながらワイバーンの翼に噛み付く。


「ギシャァァ……」


 翼を傷付けられたワイバーンは、地面に落っこちて身動きが取れない状態だ。


「わたくしの使役術でこの魔物を頂きましょう」


 バニラが魔力を送り込むと、弱っていたワイバーンは微動だにしなくなった。

 ワイバーンの足元の魔法陣が発生し、吸い込まれるように姿を消してしまった。


 使役した相手をそのまま戦わせることもできるのだが、一旦保管して再度召喚することも可能である。

 非常に利便性の高い能力だ。


「魔力の消耗が激しいですわね」

「傷を負ってしまったら、わたくしの回復魔法で癒しましょう」

「ヒーラーが居るとマジで助かる」

 

 このような難易度の高いフィールドでは回復職の存在は極めて大きい。

 俺は基本バフを使用して味方を強化するサポーターとしての位置付けなので、回復と強化の両方がいると戦闘がより楽なものになる。


「山頂が近付いてきたな」

「ドラゴンは何処にいるのでしょうか?」

「わたくしが使役できるレベルならありがたいのですが……」


 そんなことを話していると、山頂の方からとてつもないデカさのドラゴンが真っ直ぐに飛んできた。

 ワイバーンはドラゴンの仲間に近い存在なので、その敵討ちに現れた可能性が高い。


「おい、あれ!!」

「かなりの大きさですわね」


 大きな真紅の翼を広げながら猛スピードでこちらに向かって接近してくる。

 あのドラゴン、何処かで見たことあると思ったが、間違いなく平原で俺を殺した竜じゃないか。

 あの時はブレスで痛みすら感じる余裕もなく瞬殺されたからな。


「みんな気を付けろ。ブレイズドラゴンは高熱のブレスを吐いてくるんだ!」

「火山に住んでるくらいだから当然よね」

「わたくし少し怖くなってきました」


 エリシアには指一本触れさせる訳にはいかない。

 俺がバフで防御力を底上げしよう。


身体硬化フィジカルディフェンス!!


 フィールド内にいるヒロイン達は、俺との親密度合いによって強化効果が変動する。

 エリシアとの親密度はMAXではないが、既に五千を超えているため、充分な効果を得られるはずだ。


「アルト、これは何でしょう」

「体が固くなった気がしますわ」


 ドラゴンが目の前に迫り、ブレスを吐く構えを見せている。

 何とか持ち堪えてくれよ。


「グォーォォォォォォォォ!!」


 高熱のブレスが襲いくる中、二人のお嬢様はその場から急いで回避する。

 エリシアはセイントウォールをすかさず使用して俺を守ってくれている。

 少し肌を掠めてしまったが致命傷には至らない。


「ワイバーンとワーウルフを召喚しますわ」

「わたくしは最大火力の光魔法の準備に入ります」


 間を空けずに再び向かってくるドラゴン。

 次は翼を大きく動かしての突風攻撃だ。

 激しい強風に打ち付けられて、エリシアは魔力を貯めることが出来ていない。


 バニラの使役する魔物はというと、意図も簡単に吹き飛ばされ、山の麓へと滑落してしまった。

 やはり火山の主であるドラゴン相手では部が悪かったみたいだ。


「な、なんて突風なのかしら」


 俺のバフ効果で何とか持ち堪えてはいるものの、これでは完全にジリ貧である。


「万事休すか……」


 全てを諦めかけていた時……。


「水魔法、ウォータースプラッシュ!!」


 聞いたことのない声と共にドラゴンに撃ち付けられる水の塊。

 何者かがドラゴンの弱点である水魔法を放ったことで、俺たちは体勢を立て直すことができた。


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