第36話 火山地帯の攻防 Ⅱ



 俺たちはアーガイル火山付近の岩場で休憩を取っていた。火山近郊にいるだけなのに空気の温度がかなり上昇している。


「わたくし汗かいてしまいました」

「あづいですわ……早くドリンクよこしなさい」

「はいよ、24時間は持つから早めに使っちゃった方が無難だな」


 火山地帯でキャンプセットを使うのは危険な気がしてきた。休んでるところにドラゴンが襲ってきたら人溜まりもないだろう。


「ここにテントを張って拠点にしよう」


 三人でせっせとテントを組み立てていく。


 それにしても、かなり立派なテントが出来上がったな。ベッドもしっかり着いてるし、雨風を凌げるしっかりとした素材の屋根や壁も備わっている。しかも結構な広さで寛ぐには充分なスペースだ。


「長距離を歩いたから疲れましたわ。一旦休憩と致しましょう」

「バニラは料理とか出来るのか?」

「淑女たるもの、お料理の一つや二つ出来て当然ですわよ」


 木のテーブルと椅子を並べて、コンロをセッティングして、まな板と包丁を用意して、具材をたくさん切り分けて……何作ってるんだ?


「仕方ないから、わたくしが勇者さんにカレーを作ってあげますわよ。感謝なさい」

「おっ、楽しみだなー」


 何だか本格的に作ってるな。ニンニク、にんじん、ジャガイモ、牛肉、玉ねぎ、りんごのすり下ろし? カレーにりんごって合わなそうなんだが。


 野菜を炒めて、牛肉をいれて、水を入れて少し煮込んで、カレーのルーを入れて、何回か味見して……完成!


「わあっ、素晴らしいです! バニラさんがこんなにお料理が出来るなんて知りませんでした」

「昔作ってあげたじゃない。まあ小っちゃい時だったから覚えてないのも無理ありませんが」


 こう見ると家庭的でしっかりしてる一面もあるんだよな。余計な事を口走らなければ、年上の美しいお嬢様なんだけどね。


 それでは遠慮なく……頂きます!


「うまっ!!? ほんと美味しいよ。深みがあってコクがすごくって最高だ!」

「りんごを入れるとコクと旨みが引き出されるんですの。隠し味ですわね」


 ごく一般的なカレーではあるが、キャンプセットにある食材を使い、サッと上手いカレーを作ってしまった。ただの我儘なお嬢様ではなかったと知れただけでも収穫だな。


「折角だからみんなで写真撮ろう!」

「良い記念になりそうです」

「わたくしと一緒に撮れることを光栄に思いなさい」


 相変わらず口が悪くて上から目線だが、裏表なく真っ直ぐなのは良い事なのかもしれない。


『パシャっ!』

「よし上手く撮れてるな」


 二人の美女に囲まれながら、写真を何枚か撮り終えた。


 ゆっくりし過ぎて気付いたら夕方になっていた。もう六時を回っているため、少しずつ空が暗くなっている。


「夜動き回るのは危険だから、明日に備えて準備しとこうか」


 キャンプセットがここまで役に立つとは思いもしなかった。一日で強力な武器を手に入れられたら誰も苦労しないわな。アイテムショップ店長にも一応感謝しておこう。


 テント内にはなんと一つしかベッドがない。三人で仲良くおしくらまんじゅう……とはいかないだろう。寒い訳ではないので地べたに寝ても問題はないが……さすがにお嬢様を床に寝かせるのはマズイ。


「二人はベッドで寝ていいよ」

「このベッド小さいですから、三人入るのは難しいですね」

「エリシア様と添い寝ですか。久しぶりの再会ですし、可愛い妹分ですから悪くはないわね」


 俺の脳内では二人に挟まれながら安らかに眠ることを想像していたが、この状況では少しばかり無理がある。二人のお嬢様の寝顔だけでも激写しておこう。



 ◇



 もう夜もふけている。


 クーラードリンクのお陰で気持ち良くスヤスヤ眠っているエリシアとバニラ。俺は夜な夜な起き上がり、二人の寝顔を観察している。


「すごい光景だなコレ」


 モンテローズ王国でも一二を争う大金持ちと、こうして一夜を共にする日がこようとは夢にも思ってなかったよ。


『ツンツン』


 エリシアのほっぺたを指で突っついてみた。プニプニふっくらしてて可愛い。


「頭を撫でてみよう」

「アルト」

「あっ、起きてたの?」

「何か悪いことしようとしてましたね?」

「まさかまさか……!」


 エリシアがムクっと起き上がってベッドから立ち上がる。こないだ買ってあげたホーリーロッドを左手に持ちながら、手を引っ張られて外に連れ出された。


「この岩場に座りましょう」

「うん」

「見て下さい、この夜空。とても美しいと思いませんか?」

「星が綺麗だね」


 俺は言われるがままに星空を眺めていると、エリシアが頭を肩に乗せてきた。いきなりの行動にビックリしたが、すぐにブロンドの髪の毛に手を添えてあげた。


「冒険に誘ってくれて……わたくし本当に嬉しかったのです」

「お、おぅ! エリシア忙しいから、たまには息抜きしたいかなって思ってさ!」

「ふふっ、しばらくこの状態で居てもいいですか?」

「お望みのままに。エリシアちゃん」


 満面の星空を眺めながらエリシアの存在を間近で感じている。しっかりと肩を寄せて、しばらくの間二人だけの時間を過ごした。


【 エリシア・モンテローズ 】

【 親密度 : 5500 】

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