第32話 エリシアに杖を買ってあげた



 イカれた令嬢バニラを仲間に引き入れたのだが、あの後パーティー会場で訳も分からず連れ回されたので疲れが溜まっている。

 有無を言わさない彼女の言動には棘があるものの、既に勇者に対しての敵対心は取り除かれていたから安心だ。

 なんせ親密度がMAXなのだから当然っちゃ当然である。


「なあバニラ、もう疲れたから帰ろうよ」

「ええ、今日は世話になったわね」

「俺の棒を舐め回したんだからな」

「それは何と言いますか……ああ、もうその話は忘れなさい!」


 俺はMだからこっちとしては大満足というか、あんな気持ち良いとは思ってなかったもんで。


 従者のメイドちゃんはしっかりと解放してもらって任務は無事に達成することができた。今回の件で俺はそこそこの報酬を得られたので、エリシアに杖を買ってあげることにした。



 ◇



 俺はモンテローズ王国の近くにある武器ショップへと向かった。


 エリシアは回復魔法に特化したサポーターなので、回復系統の杖を装備させてあげるのがいいだろう。


「エリシアちゃーん、デート行こうよ!」

「今日は公務も御座いませんので、お出かけしましょうか」

「やったー! 初デートだね!」

「もぉー、はしゃぎ過ぎですよ」


 転生してからというもの、エリシア嬢とデートにすら行っていないのは問題だろう。今日は手をギュッと握って手繋ぎデートしてやる。


「今日は私服なの?」

「はい。ドレスは動きづらくて……公務外では自由な服装を楽しみたいのです」


 最初エリシアと出会った時は本当にびっくりしてひっくり返りそうになったよな。今日もあの日と似た感じで、ワンピースと膝上くらいのスカートで、太ももがちょっぴり見えるくらいの露出度だ。


(金髪ワンピ堪んねー!!)


「エリシアって装備何付けてるの?」

「アイアンロッドを装備してますよ」


 良い加減新しい装備を買ってあげないと可哀想だよな。エリシアに合った強そうな武器が売っていればいいんだけど……。


「今日は武器をプレゼントしてあげるよ!」

「まあ、嬉しいです。そろそろ変えようか悩んでおりましたので、大変助かります」


 俺たちは二人で仲良く武器ショップまて向かった。


『いらっしゃいませ!』

「あの、杖欲しいんですけど」

『こちらのホーリーロッドはいかがでしょうか?』

「強そうな杖ですね。いくらするんですか?」

『三十万ですね!』


 まあ手頃な値段ではある。

 今の俺はそこそこ羽振りが良いので、ある程度の値段までは出すことができる。バニラの攻略は難易度が高いミッションだったので、百万という破格の報酬を得ている。このくらいの出費なら無問題である。


「ホーリーロッド買います!」

『毎度ありー!』


 名前の通り神聖なオーラを感じる杖で、エリシアの光魔法とも非常に相性が良いだろう。


 エリシアにホーリーロッドを渡した。

 

「一回魔法撃ってみてよ!」

「そうですね。わたくしのとっておきをお見せしましょう」


 エリシアを中心として大地が振動を始め、地鳴りが聞こえている。近くにいた人達は急な地震に立ち止まって驚いた表情を浮かべていた。


「深淵の闇を貫く光よ! 絶望に抗う浄化の炎で焼き尽くしなさい!!」



 ————エンブレイズ・ホーリー!!!



 エリシアの体は神々しく光輝き出す。腕を高々と空へと突き出して、光を纏った炎を上空遥か彼方へと撃ち放った。上記を逸したとてつもない威力である。

 

「……強すぎ!!!」

「ふぅー。少々調子に乗って街中で撃ってしまいました」

「いきなりビックリしたよ!」

「アルトの買ってくれた杖が、わたくしの力を押し上げてくれました」


 エリシアって回復サポーターだと思ってたんだけど、こんな強い裏技を持ってたなんて知らなかった。マジで世界滅ぼせるレベルだな。


 周りで見物していた人達は度肝を抜かれていたが、次第に拍手と歓声に変わっていった。


『エリシア様すごい!』

『魔王をウチ滅ぼす日も近いわね』

『この人が女王になってくれれば安泰だ』


 心優しき姫君が最強の魔法を携えた瞬間だった。


「アルト、平原で魔法の練習に付き合ってはくれませんか?」

「もっちろんだよ!」

「ささっ、早く行きましょう!」

「おいおい、そんな引っ張らなくても……」


 エリシアに手をギュッと握られた状態で、俺たちは大平原へと駆けて行った。


【 エリシア・モンテローズ 】

【 親密度 : 4500 】


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