第29話 ドSな令嬢バニラ Ⅰ



 現時点で親密度MAXのヒロインは五人。


【ユカリ】【リディア】【エレナ】【シローナ】

【ミユキ】


 この先も仲間に出来る女性ヒロインが多くいるのだが、次に現れる人物は一筋縄ではいかない人物である。


 城下街の豪邸に下僕と共に暮らしている彼女は、人を見下し蔑むことが大好きなお嬢様だ。

 エリシアとは真逆の性格で、とにかく上から目線なドSタイプの女である。


 このキャラに手を出すのは少々気が引けるが、この先の冒険で大いに役に立つ能力を持っている。


「一度会ってみるか」


 はっきり言って普通に仲間に引き入れるのは不可能に近い。

 ゲームではミスなく選択肢を選んでいけば仲間に加えることが出来たが、その選択肢が存在しない今、俺自身で説得する必要があるのだ。


 そんな面倒なことをやってる余裕はない。

 密会を開いて堕落させるしかないんだ。



 ◇◇◇



 とあるパーティー会場の一室にて。


 高貴なドレスに身を包み、金髪の巻き髪を揺らしながら佇む女性は、一人の女従者を叱り付けて命令する。


「この大事なパーティーに遅刻するとは何事ですの?」

『申し訳ございませんバニラ様。馬車が途中で壊れてしまいまして、修理に時間を要しまして……』

「見苦しい言い訳など聞きたくありません。罰として、わたくしの靴を舐めなさい」

『は、はい。畏まりました」


 使い古した汚い靴を舐めるよう命令を下す女の名はバニラ。

 資産家の家系の元に産まれた一人娘であり、莫大な富を得て裕福な生活を送っている。


「何をやっているのかしら。もっと舌で隅々まで綺麗に舐め回しなさい」

『はい、バニラ様』

「さっさとなさい」


 そう言うと、手に持った鞭を使って容赦なく叩きまくり、素肌に複数箇所の切り傷が付き赤く腫れ上がっている。


『うっ、痛いです……』

「下民の分際でよく遅刻なんかできたものね。汚れが全て落ちるまで続けなさい」


 家畜のように従者を扱ってきたバニラに対し、深い憎しみを抱くこの従者は、勇者である俺に依頼を申し込んできた。

 非道を繰り返すバニラを抹殺してほしいと……。



 ◇◇◇



 このイベントはゲームの進行上、受ける必要はないのだが、可哀想な従者を助けて報酬が貰える上に、強力なドS女を仲間に迎え入れることができる。

 まさに一石二鳥のイベントなので受けない理由はない。

 今の俺には最強のスキルがあるので、手間暇かけずに救出できて親密度をMAXにすることが可能だ。


「さて、従者の女子を助けに行くかな。ゴリ押しタイプのユカリが相性良さそうだ」


 ———ユカリ召喚!!


「何か御用でしょうか」

「バニラと一戦交えるんだけど、着いてきてくんない?」

「わかりました。色々溜まってきたのでストレス発散したかったんですよね」

「お前が溜め込んでるのは性欲だけだろ……」


 ユカリは今回の依頼に対して何か思うところがあるようだ。


「エリシア様から聞いておりましたが、あの令嬢は性格がひん曲がってるそうです」

「そうだ。自分の従者を虐めて楽しんでる外道だよ」

「同じ立ち位置であるメイドとしては許せません。ひん剥いてやりましょう」

「一応それは俺の仕事だからな」


 てな訳で、俺たちはバニラの居るパーティー会場に足を運んでいた。

 成金の金持ちが大勢招待されるパーティー会場には、既に高級な馬車が何車か止められている。


 勇者特権で会場へ入ることを許されているため、何の不自由もなく入ることができた。


 俺はフロントのスーツを着たおっさんに声をかける。


「バニラさんどこに居ますか?」

『バニラ様なら二階の試着室においでですよ。今はお着替え中ですので、ご無礼のないようにお願いしますね』

「分かりました。ありがとうございます」


 奴は試着室で従者を虐めている真っ最中のはず。

 そこに俺が乗り込んで現行犯逮捕してやる。


「ドアを開けるぞ。メリケンの用意は出来てるか?」

「はい。この通り準備は万全です」

「よし、突撃ー!!」


 部屋に侵入すると、案の定メイド服姿の従者が鞭打ちにされている。

 勇者である俺を見るや否や、助けを求める声を上げ始めた。


『勇者様助けてー!!』

「今助けてやるから待ってろよ!」



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