第18話 ヤンデレ娘シローナ Ⅰ
世界征服を目論む魔王を討伐し、世に平和をもたらすことが勇者に与えられた責務である。
しかしながら、魔王だけに注視していては国の平和は維持できないんだ。一般市民にもちゃんと目を向けてやらなければならない。
つまりは、病みきっている女の子の悩みを聞いてあげることも俺の重要な仕事だ。
てな訳で、商店街の路地裏にひたすら突っ立っていることにした。新たな仲間を手に入れるために……。
「今日中にここを通りかかるはず」
何時間も同じ場所に立ってると自然と怪しまれて、通りかかった人達の『コイツ大丈夫?』的な視線が辛いんだよね。
……。
「……マジでこれ来るの? もしかして日付間違えたかな」
その心配は杞憂となり、前方からじめっとした雰囲気の女の子が現れた————————。
◇
【 シローナ 】
心に深い闇を抱える女性。過去に何があったかは明かされていない。年齢19歳。
髪色は黒。ミディアムロングでサラサラした細い髪質が特徴的。前髪は少し目が隠れるくらいの長さ。ピョこんと立ったアホ毛。
トップスは黒のキャミソールに薄手のカーディガン。薄ピンク色で短めのスカート。白の長いソックス。
胸は大き目。
◇
闇を抱えている割には、比較的責めた服装を貫いている。これは少しでも自分を認めてほしいという願望の現れだ。
魔王軍との戦いで、見事勝利を収めた勇者の姿をシローナは見ていたんだ。だから俺の存在自体は知っている。
彼女は決して俺に好意を抱いている訳ではない。ただちょっとだけ気になっている程度なんだ。最初は親密度が低いからな。
では紳士的に優しく声をかけてあげるとしよう。
「どうしたんだお嬢ちゃん。元気がないみたいだけど」
「あなたは……勇者様?」
「うん。俺は間違いなく勇者のアルトだよ」
一瞬気を許して笑みを浮かべそうになったが、すぐに俯いて暗くなってしまう。
色々悩みを抱えてるんだろうな————。
(私ってダメダメだから、何をやっても上手くいかないし、怒られてばっかりで、本当に生きてて意味あるのかな)
この子との関係性を築くのはかなりの難易度だった。現代風に言うならば、病んでいる。病みきっているんだ。
(私を見てくれる人はいない……死んでも誰も気付かない……)
セリフの一つ一つがとにかく闇そのもので、いつ命を絶ってもおかしくないレベルでヤバい。そんな彼女の心の闇を一瞬で取り払うために、俺は長い時間ここで待っていたんだ。
(勇者様は私のこと……知りたいのかな)
だが、いきなり密会を発動させるのもどうかと思うから、ここは探りを入れて、どの程度症状が酷いかを観察しよう。
彼女の生の声を聞くんだ————。
◇
「シローナの好きな食べ物はなんだ?」
「ブドウです」
「……」
「シローナの好きな花はなんだ?」
「ユリです」
「……」
「シローナの好きな本はなんだ?」
「少女漫画です」
「……」
(……会話が続けられない。少し突っ込んだ質問するか)
「シローナはインドア派? アウトドア派?」
「小屋にいます」
「……」
「シローナの好きな柄は?」
「花柄です」
「——ぶふっ……」
(花柄って…………。思わず吹き出してしまったから、シローナが泣きそうになってる)
「シローナは何て呼ばれたい?」
「………シロ………ちゃん」
「——ぶふっ……」
(シロちゃんて…………。幼すぎないか? ————ダメだ。笑っちゃダメ。この子と真剣に向き合わないと)
暗い空気感が更に重苦しくどんよりと変わる。今にも泣き出しそうなシローナに対して、最後の質問へと移った————。
「シロちゃんは
「…………」
(やべっ、なんか禁忌に触れちゃった気がする)
シローナは突然黙り込んでしまう。その瞳には見る見る内に涙が溢れ出し、大声で泣き出してしまった。
「ぐすっ……勇者様の……ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁん……!」
「シロちゃんゴメン! 悪かったって!」
過去に何が起きればこうなってしまうのか検討も付かないんだけど……。実際ここまでの描写はなかったからな。
女の子の鳴き声で周りがざわつき始めたな。この場面を見た人間の大半が、俺をストーカーか何かだと勘違いしてるだろう。
『勇者って実は女癖悪いんだ』、などと言われるのはゴメンだし、異世界で株が落ちるのは本意ではない。何よりエリシアの耳にでも入ったら大変だ。
「本当に俺が悪かった! ねっ、ほら、この漫画あげるから泣き止んで」
「グスっ…………済みま……せん」
(事前知識で少女漫画買っといてよかったぜ)
◇
少女漫画のお陰で何とか泣き止んだシローナ。ここは人目に付きやすいから場所を移動した方が良さそうだ。
「少しは落ち着いた?」
「はい……見苦しい所をお見せして済みません」
会話のキャッチボールをしたことで、少しだけ壁が取っ払われたと思う。
服を摘んで甘える素振りを見せるシローナだが、相変わらず暗い感情が垣間見え、口を噤んだままなのは変わらない。
「立ってるのも疲れたでしょ? 近くの公園で休憩しよっか」
夕方の人気の少ない公園のベンチに腰掛ける二人。まるで初めてデートに行った男女のような、何も話さない沈黙の時が続く。
(まあ俺も異性とデートなんかした事ないし、どんな気の利いた言葉をかければいいかなんてわからないけど—————)
『ポンポン……』
シローナは頭を撫でられるのが大好きなんだ。あまり知られてない攻略法なんだけどね。毎日の日課として行い、地道に親密度を増やしてたっけ。
「撫で撫でされるの……大好きなんです……」
シローナのチャームポイントでもある、チョこんと立ったアホ毛が反応している。
「出来れば……もっと撫で撫でしてください……」
右左とウロつくアホ毛が妙に可愛いくて、動きに合わせてシローナの息使いも荒くなってきた。
(くそっ……これはかなり強烈だ。どんどん撫でてみたくなる好奇心に駆られる)
「はぁ……気持ちいいです」
不覚にも興奮してきてしまった。俺の下半身のセンサーも反応を示している。心臓の鼓動が高鳴り始め————とうとう我慢の限界に達した……。
———— 密会……発動。
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