第17話 エリシアを看病する



「——ハッくしゅん……」


 ベッドで横になり、何度もくしゃみをするエリシア。


「エリシア大丈夫?」

「えぇ……少し寝ていれば治りますわ……」


 いつもの微笑ましい笑顔はない。


 悲しきことに、エリシアが風邪を引いてしまったんだ。仕事からくる疲れが原因なのか、昨日から熱を出して寝込んでしまっている。


 こんなに辛そうなエリシアを見るのは初めてのことだ。できることなら代わってやりたいが……。


「わたくし……公務が残っておりますので……」


 起きあがって歩こうとするエリシアだったが、すぐに近くの手すりに捕まって動けなくなってしまう。


「無理しちゃダメだ! いいからベッドに戻って」


 フラフラしてるし、こんな状態で動けるはずがない。ましてや仕事なんてもってのほかだ。しばらくは絶対安静が第一。


「うっ……」

「今おかゆ持ってくるから。静かに寝てるんだぞ!」

「申し訳ありません……」


 俺は食堂からアツアツのおかゆとストロー付きの水を持ってきてあげた。


「体起こせるか?」

「はい……」


 少しは何か食べないと抵抗力がどんどん落ちていってしまう。風邪を早く治すためにも頑張って食べてほしい。


「アーンして、アーン」

「わたくし一人で食べられますから……」


 顔が火照って辛そうにしてるのに、こんな時まで強がらなくていいんだ。


「遠慮しなくていいから」

「で……ですが……」


 エリシアは諦めて、口を少しずつゆっくりと開く。小さめのスプーンで、あまり大きく開けられない口に流し込んであげた。


「熱っ……?!」


 しまった! 女の子を看病した経験もないから、つい冷まさないで食べさせちゃったよ。フーフーしてからじゃないと火傷しちゃうじゃん。


「ごめんエリシア! ちゃんと冷ましてから食べさせてあげるから!」


 気の利かないやつとか思われたら終わりだよ。数秒前にタイムリープしてやり直したいぜ。


「もう一度口開けて。アーン」


(具合悪そうで凄く可哀想なんだけど、弱々しいエリシアも可愛い過ぎる……)


「わたくし……ちょっと恥ずかしいです……子供みたいに食べさせてもらって……」


「体調不良の時はみんな同じだって。気にしなくていいよ」


 病人には優しい言葉をかけてあげるのが大事なんだ。それだけで心が休まって治りも早くなる。


「水飲みたいでしょ? ストロー刺したから飲みやすいと思うよ」


 コップを顔付近まで持ち上げて、飲みやすいように位置を調整してあげた。


 エリシアはストローの先っぽを掴んで口へと運び、ゆっくりと水を吸い上げる。あまり力が入らないのか飲むのも大変そうだ。


(唇がチューってなってる!)


「ありがとう……ございます……幾分か楽になった気がします」


 エリシアは仰向けの体勢で横になっている。腕を顔にもっていき、目を覆い隠して静かにしていた。


「熱冷まシート持ってきたからおでこに貼るよ」

「はい……でも前髪が邪魔なので……」


 綺麗なブロンドの前髪をサラッと上げて、髪を巻き込まないように貼り付ける。


「冷んやりして気持ちいいだろ?」

「はい。すごく気持ち良いです」


(そうかそうか。エリシアが気持ち良くなってくれると嬉しいよ)


 水分補給と軽い食事で少しだけ活力が戻ったように見えて嬉しい。さっきよりも顔色良くなったみたい。


 だが油断は禁物だ。健常な状態じゃないのは明らかだし、どのくらい症状が酷いかを正確に知る必要がある。


「熱測らないと」

「えっ……ええ、そうですわね」

「はいっ。これで測ってみて」


 脇に挟むタイプの熱測りを渡してあげた。

 …………。


 寝巻きの一番上のボタンを外し、襟の部分を手で掴みながら、熱測り機を脇の方へと持っていく。具合が悪いから動きも鈍い。


 今のエリシアは服の乱れを気にする余裕がない。胸の谷間が見えるくらいまで、徐々に服が下がってしまっている。


(エリシアちゃん少しは気にしないと、パジャマがはだけちゃうって)


 …………。


 ダメだダメだ。何を妄想しているんだ俺。体調不良のエリシアに欲情するなどあってはならない。邪な考えは捨て去れ。


 その確固たる思いも虚しく、俺を更なる欲望の渦が襲いかかる。


「あっ……落ち……熱測り落っことしちゃいました……」


 パジャマの中に落としたってそりゃマズイだろ。どうやって助ければいいのか誰か教えてください。


「ど……どの辺に落ちちゃったのかな……?」

「この辺りに引っかかってるみたいです」


 エリシアは手を頑張って背中方面へ伸ばしていたが、あと一歩のところで届かない。腕を伸ばし過ぎて無理をさせるわけにはいかない。


 パジャマが盛り上がってる場所がある……腰の辺りに落っことしたかな。


 エグい場所じゃなくて良かったけど……背中の近くに落下して、ズボンの間に挟まってると予想する。


 手を貸すのはやぶさかではないが、下手したら見てはいけないモノが見えちゃいそうだから怖いな。


 上のパジャマをズボンに仕舞ってる状態だから、裾をちょこっと引っ張ってあげれば、ポロっと落ちるんじゃないかな。


「ごめん、ちょっと引っ張るよ」


 力加減を考えないと、引っ張り過ぎるとまずそうだ。慎重にゆっくり……ゆっくりと……。


 ……。


(はぁ……助かった)


「はい。取れたよ」


「こんな身の回りのお世話までして頂いて……申し訳ありません……」


「良いって良いって! もし俺に風邪移っちゃったら看病してもらうから!」


「もう、アルトってば意地悪なんですね」


 何とか窮地を脱することができた。ピンク色の生地がちょっとだけ見えちゃったのは内緒だ。


「熱が高いね……ユカリに薬がないか聞いてみるよ」


「はい。お願いします」


 非常に辛そうなエリシアだったが、ユカリが持参した風邪薬で呆気なく治った。


 大事にならなくて良かったよ。これからは無理しないでね! エリシアちゃん!




【 エリシア・モンテローズ 】

【 親密度: 2300 】


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