第15話 エリシアとお食事


 


 女王陛下との謁見を済ませ、何とかエレナを国内に滞在させる許可を得ることに成功した。


 エレナの罪が帳消しになったわけではないが、とりあえずの区切りにはなったんだと思う。


 話し合いの結果、エレナは宿屋に泊まることになったが、あまり乗り気ではなさそうだ。少々不貞腐れていたエレナだったが、俺たちは一旦別行動をする。


 そろそろ大切な約束の時間だ。エリシアとのお食事タイム、こんな最高のご褒美が他にあるのか。


 転生してからというもの、同じベッドで寝てはいるが、何かが起こることもなく一夜があけてしまう。一緒に寝てるってだけで奇跡みたいなもんだけど、少し寂しいのが正直なところ。


 初日は気分が高揚してたから、お触りしたり胸を揉んでやろうとか思ってた。だけど、今はそんな気分にはならないんだ。自分でもよくわからない不思議な感覚に襲われている。


 まあバレないように裸体鑑賞しようとしたことは認めよう。だけど、脱衣所にいたのがリディアだったことに、少しだけホッとしていた自分がいるんだ。


「そろそろ準備しよう。こんな汚らしい格好で参加しては行儀が悪すぎるからな!」


 大浴場で汚れた体を洗い流して綺麗さっぱりしてから、エリシアの待つ食堂へと足を運ぶ。



 ◇



 城内のとても広い食堂。天井には豪華なシャンデリア。洋風な部屋の数箇所に絵画が展示されている。テーブルは十人以上が同時に食事を楽しむことができる程の長さだ。


 既に食欲を唆られるフランス料理が二人分並べられている。今日の主食は魚のムニエルとビーフシチュー。


「エリシアはまだ来てないみたいだな」


 椅子に座って待っていると、食堂入口の扉が開く音が聞こえた。


「お待たせして申し訳ございません。少々時間がかかってしまいました」


 外で見た時と比べて、より鮮明に写るエリシアの美貌は言うまでもない。


「エリシアちゃんマジ女神!」


「もうっ、アルトったら大袈裟ですわ。何日か部屋で一緒に寝てるじゃないですか」


 エリシアの照れる仕草を見て心臓がバクバクしてきた。密会中とは全く別の緊張感に包まれている。


(顔赤らめてるよ! 可愛さフルMAX!)


 俺は爆発しそうな感情を抑え込み、気を紛らわせるようにいきなり料理を食べた。それを見たエリシアは注意を促すように言う。


「いくら勇者様でも、お食事のマナーは守らないとダメですよ!  例外はありません!」


 ぐはっ、俺としたことが不覚だった。日本の飲食店で飯を食う感覚で手を出してしまったよ。


「ナプキンを膝の上に置いてくださいね! それからフォークで料理を切ってはいけません!」


 年齢的に俺よりも年下だよね? このあまりにも歴然とした人間力の差はなんなんだ!

引きこもってばかりだった俺には耳が痛いぜ。


 勇者特権がこの場面で効力を発揮することはなかった。


「いただきます!」


「わたくし、料理長の作るビーフシチューが大好きなので、いつも頼んで作ってもらってます」


「これは美味すぎる!」


 料理長には信頼をおいてるみたいだな。だからこそ料理長には罰を与えたんだ!


「そういえば最近料理長がマスクをするようになったんですよね」


「あははは……何でだろうねー」


 この俺がちっちゃいゾウさんを顔に描いたからな。あんな見っともない絵を公開したくはないだろう。



 ◇



 談笑をしながら時間がゆっくりと過ぎていく。なんて甘い一時なんだろうか。


「ごちそうさまでした!」


「それではお部屋に戻りましょうか。お食事に付き合ってくださりありがとうございます」


 部屋へと戻りテーブルの椅子に腰掛けると、俺の近くにエリシアが何故か寄ってくる。


「お口の周りが汚れていますよ! わたくしが拭いてあげますからじっとしててください!」


「……はいーっ!! じっとしますー!」


 それにしても距離が近いな。かがんでるから胸元に目がいっちゃうし、ブロンドの髪の毛が綺麗すぎるし、肌もツヤツヤで、目のやり場に困る。


「アルトって私生活では子供みたいなんですね! なんだか可愛いです!」


「はい! 大変光栄でございます!」


「褒めてませんよ!」


 子供のようにくすくすと無邪気に笑うエリシア。どっちが子供なんだかわからないな。



 ◇



 段々と夜が更けていき、おやすみの時刻となる。椅子に腰をかけ、窓から夜空を見ながら自身の願いを語る。


「誰もが平等で自由に生きられる、そんな明るい世界を築きたいのです。アルト、わたくしに協力してはくださいませんか?」


 身分や地位に固執することのない、一般市民を思う気持ちに強く心を打たれた。断る理由なんてない。


「当然だろ? 俺はエリシアちゃんのためならなんだってする男だ!」


「もう、またそうやってカッコ付けて」


 俺はこの子の前でならいつだってカッコつけてやるんだ!


「わたくしは明日早いので、そろそろ就寝いたしますね」


「わかった! 明日も仕事頑張ってね!」


 疲れが溜まっていたようで、横になってすぐに寝息を立てて眠ってしまった。俺にはわからない色々な苦労があるんだろうな。


(さて、今日もべったりくっ付いてやる!)


 相変わらず反対向きで寝てるんだよな。まあ、その方が遠慮なく密着できるんだけど。


(うぉー、むっちゃ良い匂いする。幸せー)


 俺は全く気付いていなかったが、エリシアは起きていた。調子に乗って体を近づけ過ぎていた俺にボソっと囁く。


「アルトは本当に甘えん坊さんなんですね」


 そう言って自らこちら側に向き直り、おでこを俺の額にコツンと当ててきた。


(何これどういうこと!? 顔の距離が過去一近いって!)


「わたくし知っているのですよ。いつも体をくっ付けて寝てるの。そんなに近くにいたら誰でも気付きます!」


(完全にバレてた!)


 だけど、俺は気付かない内に寂しさを抱えていたのかもしれない。そんな俺の気持ちを察してくれたエリシアは、耳元で優しく呟いた。


「アルト、おやすみなさい」


 包み込まれるような慈愛を感じながら、静かに夢の中へと運ばれていった。



【 エリシア・モンテローズ 】

【 親密度: 2000 】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る