第14話 魔女エレナ Ⅲ
アイテムショップ現店長、
エリシアに勝利の祝いとして花束でも買ってあげようかと思ったけど、エレナが梶修のアイテムショップを壊しちゃうからさ。あそこ品揃えだけは良かったんだ。
魔王に捨てられたエレナはというと、親密度MAXの俺を頼って、自身が攻め入ったモンテローズ王国に滞在することにしたらしい。
城へと続く道を歩きながら、俺はエレナに対して苦言を呈する。
「お前どうやって弁明するんだ? 攻め入った件で、女王に打首にされる可能性大だぞ」
「アンタには例のいかがわしい力があるじゃない。あれで何とかならないの?」
恐れ多いことを平然と言ってのけるな。エリシアの実の母親に手を出すとは不敬極まりないだろ。母ちゃんと密会するのと何ら変わらんし。
「お前なあ、世の中にはやっていい事と悪い事があるんだ。今回は後者だからな」
いやね、俺だって誰彼構わず能力を行使する訳じゃないんだ。ハーレム目指すなら年齢は関係ないってのは間違ってないんだけど、夢がないのよ夢が。だって子供いるし。
このゲームって王様いないから別に関係ないんだけどさ、さすがに熟し過ぎてるのは俺の倫理観に反するわけですよ。
それはさておき、俺はふとエレナの大きな帽子が気になっていた。ほうきもそうなんだが、戦闘開始から今現在までずっと被り続けている。
「エレナ、ずっと気になってたんだけど、その魔女帽子って大切なものなのか?」
「うん。これはね、アタシが小さい頃に魔王様がくれた帽子なの。大切な物だから基本洗う時以外は外さないのよ」
捨てられていた小さい子供を見つけた魔王は、その子を引き取り育てたそうだ。その時に与えられたのがこの魔女帽子である。
「魔王って意外と良いやつなんだな」
「ちょっと変わってるけどね! アタシを育ててくれたお方なのよ!」
立派な魔女になるために長い年月をかけて修行をしたエレナ。その努力の成果が実った結果として、魔王軍幹部まで上り詰めたんだ。
身寄りのない少女を育てるとは、案外人間味のある奴だったんだな。まさかゲームのラスボスにそんな一面があったとは。
「結局捨てられたんじゃ世話ないけどね」
「うん。もしかしたらアタシを自由にしてくれたのかもしれないわ。何だかそんな気がするの」
マジ泣けてくるいい話じゃん。魔王のことちょっと見直しちゃったよ。
「本当にエレナを大切にしてたんだな! 俺たちからすれば敵だけど、お前からしたら親みたいなもんだしね!」
思いもよらないストーリーを聞かされてしまい、イメージが大きく変わってしまいそうだ。
「魔王様は夜もトレーニングしてるっぽいんだよね」
「努力家なんだな!」
「でもアタシは一緒にやらせてくれないのよ。何でなんだろう」
あんまり無理させたくないんだろう。親心があってなんだか胸が苦しくなるぜ。
「アタシの姉みたいな存在のサキュバスがいるんだけど、毎日お部屋で夜一緒にトレーニングしてるみたいなんだ!」
おやおや、何だか不穏な予感がするのは俺だけか。魔王は実はまじめで思いやりのある良いやつって話だったと思うんだけど。
「ちなみにどんなトレーニングしてたんだ?」
「トントンって数十秒ぐらい音がしてて、疲れた感じの息づかいが聞こえたから、結構厳しいトレーニングしてたんだと思うわ!」
結論。やっぱり魔王は屑だった。俺の高評価を返しやがれ!
それ間違いなく密会中だからな。正真正銘夜の営み中だから、中覗かなくて良かったと思うよ。
まあエレナを育て上げたのは事実だし、そこは素直に評価してやってもいいのかもしれない。
「今度手紙でも書いて送ってあげたらいいんじゃない? きっと喜ぶと思うよ」
「そうね……アンタにしては気が効く提案じゃない!」
素直にありがとうって言わないところが、そこはかとなく可愛いと感じた今日この頃。ツンデレも悪くはないと思った。
魔女帽子に手を当てながら微笑むエレナと一緒に、到着した城内の中へと入っていく。
エレナが国内に留まるには、何とかして滞在許可を得なければならない。女王陛下に許しをこう必要がある。
◇
『我が娘エリシアから聞いておる。此度の戦い、誠に大義であった』
一国の長ともなると威厳がすごいし、怖そうな人だという印象しかない。女王陛下はゲームではあまり登場しないキャラだし、仲間にすることも出来なかったんだ。
『して、我に何用だ。申してみよ』
「実はあなたにお願いがありまして……これから連れてくる者の滞在を許可して頂きたく存じます」
騎士が後ろで牽制しつつ、エレナが緊張の面持ちで謁見の間へと入ってきた。
『此奴は魔王軍の……』
「今回の戦いの末、俺に寝返った魔女です。こちらに引き入れるのが、今後の為にも得策かと……」
(ドキドキ)
『ふむ。勇者殿の迅速な働きにより、今回は死傷者も出ておらぬ。そなたの部下となったのならば、我も断る理由はない』
(はぁー肝を冷やしたぜ。勇者特権様々だな)
「ありがとうございます」
騎士に連れられて謁見の間を後にする二人。罪人を幇助した罪に問われるかと冷や冷やしたけど、何とかなるもんだな。
「よかったなエレナ。これで俺と一緒に過ごせるぞ!」
「べ……別にアンタと一緒に過ごしたかったわけじゃないのよ……! でも……嬉しいわ」
そっぽを向くエレナの表情は柔らかくなり、二人はしばらく夕日を眺めて過ごした。
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