第13話 魔女のほうきを欲しがるおっさん
魔王軍との熾烈な戦いが終わりを告げ、モンテローズ王国には一時の平穏が取り戻される。街にはいつも通りの活気が戻り、人々は戦いの勝利を喜んでいた。
そんな中、俺の心も喜びに満ちている。エリシアがやっと食事に誘ってくれた! 今すぐにでも城へと戻りたいのは山々だが、その前にある用件で向かう場所があるんだ。
立ち寄った先はアイテムショップ。戦利品である魔女のほうきを売却する為だ。下手したら相当の価値があるかもしれない。
なんせ魔女の乗り回していた……いや、股間に挟みまくっていたほうきなんだ。一定の信者が舌舐めずりする代物に違いない。
生憎だが、俺にそのような趣味はないし、宝の持ち腐れになってしまう。人が挟んでいたほうきのどこがいいんだ? 下々の民は泣いて喜ぶんだろうけど……全く下品な連中だぜ。
『カランカラン——————』
『いらっしゃいませ!
この店って何故か日本人なんだよな。薬草とかポーションとか売ってるから、結構利用させてもらってたよ。アイテムを売却することもできるし結構人気な店なんだ。
「済みませーん! 魔女のほうきを査定してほしいんですけど」
エレナの落としたほうきを手渡すと、店員のおっさんは驚いた表情を見せた。
『な……なんと! あなたどこでこれを?』
「さっき攻めてきた魔女が落としてった戦利品ですよ。持っててもしょうがないんで売却しようと思いまして」
『エレちゃんが…………失礼。魔女のエレナさんが肌身離さず持っていたほうきですよね! 素晴らしい! あなたは幸運です!』
予想外の反応が返ってきたことに驚いたが……。そこまで価値のある物には見えない。ただの使い古したほうきじゃん。
『勘繰っているようですねお客様。ロリッ子…………失礼。魔女が乗っていただけの、何の変哲もないほうきだとお考えなのでしょう? 甘い……甘いんですよ考え方が!』
おっさんだいぶ熱くなってるな。まあロリコンでエレナの大ファンってことは理解したし、別に売らないとは言ってないよ?
「そんで、幾らで買い取ってくれます?」
『うーむ、これはプレミア中のプレミア。美少女の股が付…………失礼。かの魔王の側近が乗っていたほうきですからね。価値は伝説級です! ザッと見積もって……』
—————1000万ゴールドとなりますね!
「はぁぁぁぁあ!?? 1000万だと!?」
ディルナッド大陸の通貨はゴールド。価値としては、1円=1ゴールドと考えて差し支えない。四桁万円の大金が一瞬で手に入るのと同義だ。
ミッションでスライムプチプチ潰して一日8000ゴールドとかだったぞ! いよいよ魔王とかどうでもよくなるわ!
『でっ、お客様! どうなされますか? まさかここまで説明させておいて、エレちゃんと同じほうきに跨って遊びた…………失礼。ご自身の部屋に飾りたいなんて言い出しませんよねぇ?』
うん。コイツ俺以上にイカれてるわ。目がいっちまってるもん。
「売ります、売りますから落ち着いてください!」
『ご贔屓に、ありがとうございます〜♪』
もう悔いはないみたいな顔するのやめてください。全く、ウチの父ちゃんがこんなゴミじゃなくてよかったぜ……。
◇
まさか掃除に使用するほうきで、一気に金持ちになれるとは思ってもみなかった。魔女を揶揄ってみるのも悪くはないな。
このロリコン店長は一発グーで殴って目を覚まさせてやりたいが……。
天にも登るようなおっさんの顔を眺めていると、突如として外の天気が荒れ狂い始める。雷が激しく雷鳴を轟かせ、突風の影響か店内がカタカタと揺れ動いていた。
「おっさん! ここは危ないかもしれませんよ! 今すぐ外に出た方がいいです!」
危険を感じた二人が店を出ると————。
「この変態糞おやじ〜〜〜!!! これでも喰らいなさーい!!」
唐突に現れたエレナは、雷の魔法でおっさんの頭上にイカヅチを落とした。脳天を貫かれたアイテムショップ店長の梶修。
しかし、おっさんは満面の笑みを浮かべている。致命傷にも関わらず、何故か誇らしげにとんでもない自身の願望を語り始めた。
『あぁっ……エレちゃん……最後に会えて嬉しいよ。将来天国に来たら一緒に……◯◯◯して×××したり△△△弄って——————』
もう完全にアウト。あまりに不快感極まり過ぎてお見せできません。
おっさんは天に召された。最後の最後まで、エレナに卑猥な言葉をかけ続けながら……。
「最後の方は何言ってるか意味不明だったけど……碌でも無い内容なのは確かね」
「四十超えたおっさんが話すとリアル過ぎて……この俺ですら鳥肌立ったわ」
結局ゴールドは獲得出来ずじまいで、ただのほうきだけが取り残されていた。億万長者の夢————ここに散る。
「てゆうかアンタ……あんなイカれた親父に、アタシのほうき売ろうとしてんじゃないわよ!」
「だって1000万だよ? そりゃ売るって! えーっと、ちなみに愛用してたほうき返してほしい?」
エレナは手を前に重ねてモジモジしながら話す。
「いいわよ別に。一度捨てたんだからアンタにあげるわ。どう使うかはアンタの自由よ……!」
「ふーん、どう使ってほしいの?」
「別にアンタに跨ってほしいとか……そういう事じゃないんだからね……!」
未だ素直になれない変態魔女。ここまでのツンデレ娘はそうはいないだろう。奴隷になってあげるとか言ってたしな。
「そういえば、魔物引き連れて撤退したよね。魔王の所に帰ったんじゃないの?」
「はぁ。アタシ捨てられたのよ。魔王様なんか不機嫌だったしね。一体どうしちゃったのかしら」
————— エレナが仲間に加わった。
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