第12話 エリシアが純粋過ぎる

 


 魔女エレナは戦闘不能に陥った。果敢に攻めていた従者達は撤退を余儀なくされ、次々と戦線を離脱していく。


 エレナ恐るるに足らず。俺の力を持ってすれば、どんな魔女でも快楽の海へと沈んでいくんだ。


「覚えときなさい! 今度会ったら……特別に奴隷になってあげるわ……。本当に……本当に特別なんだからね!」


「お……おぅ! 特別に調教してやるよ!」


 大所帯で攻め入った魔王軍は呆気なく引いて行った。


 卑猥なパンツを見られたのがそんなにショックだったのだろうか。愛用していたほうきを捨てて、魔物の背中に跨り帰っていく。


 ほうきが何の役に立つかは知らないが、一応アイテムボックスに保存しておこう。


 最終的に放置されていたユカリは、少しむくれた顔で言った。


「アルトって……ああゆうタイプが好みなんですね。途中から私には見向きもしなかったのはショックです!」


 ユカリは負けじと、全裸一歩手前まで身体を曝け出していたそうだ。


「俺は全ての女性に平等な男だ。初体験のエレナを優先するのは当然だろう」


(マジかよ……不覚だったぜ。俺の視野がもう少し広ければ気付けたのに)


「色んな女の子に手を出してはしゃいでいるのはどうかと思います! エリシア様に言い付けちゃいますよ?」


「それだけはマジで勘弁してくださいユカリ様! 何でも言うこと聞きますからぁ」


 ユカリに弱みを握られてしまった。エリシアちゃんの親密度を下げる行為は何としても避けなければならない。


「じゃあ次は私を蔑ろにしないで、しっかりと見物してください。好きな所触ってもいいんですよ?」


 ドM極まってんなお前。単純にいじくり回してほしいだけだろう。全く親の顔が見てみたいぜ。



 ◇



 自陣の連中がゾロゾロと街へ戻って行く中、普段着ではない高貴な衣装に身を包むエリシアの姿が見える。あまりに潤しい姫を前にして、淫らな気持ちなどは一才なくなってしまった。


 首から胸元まで空いており、谷間が少しだけ強調された赤色のドレス姿が印象的だ。首にも王族が装着するような、ルビー付きのチョーカーを着けている。


 やっぱりエリシアは可愛すぎるんだよな。


「ご無事で何よりです。お怪我はございませんか?」


「大丈夫。どこも問題はないよ! この通りピンピンしてるからな!」


 俺の発言を聞いたユカリが、唐突に余計なことを口走る。


「アルトは下半身がビンビン・・・・しているそうです」


 文字が濁音に変わってるし、その発言は問題有りすぎるからな。冗談でも言っていい事と悪い事があるんだ。


 エリシアは首を傾げて質問する。


「下半身ですか? うーん、動き過ぎて疲れてしまったのですね。さぞかし大変な戦いだったのでしょう」


「そ……そうそう下半身ね! 魔女に追われて走りまくったからさー。もう足がビンビンなんだよね……」


 少々強引ではあるが何とか誤魔化せた。エリシアちゃんが純粋な子で本当に良かったよ。


 それに比べてこの変態メイドときたら……油断も隙もないな。どこでそんな卑猥な擬音覚えてきたんだよ。


「エリシア様。今しがた魔王軍幹部が撤退いたしました」


「ユカリにはいつも助けられておりますね。本当に感謝してます!」


「勿体なきお言葉です。ですが、今回の戦いに関しましては、アルトの功績が大きいでしょう。魔女に対して衣服の脱衣を————」


 俺は咄嗟にユカリの口を塞ぎ、説明を静止させてから耳元で呟いた。


(正気かお前は! これ以上俺の好感度を下げるんじゃない!)


「衣服でございますか? 脱衣とは……確かにアルトは少々厚着をしておられる気がします。仕方ないことですわね」


 これ以上のやり取りは身を滅ぼす。さっさと城に戻ってメイドの仕事をしなさい。


「私は城内の清掃に戻らせていただきますね。それでは失礼いたします」


 ユカリはペコリと頭を下げると、そそくさと城へ帰っていった。



 ◇



「わたくし驚きました。まさか幹部を簡単に撃退してしまうなんて。やっぱり勇者様はお強いんですね!」


「こんな所で苦戦してられないしな! エリシアは安心して見守ってくれればいいよ!」


 密会を開いて堕落させたとか、口が裂けても言えない。ユカリの奴、俺がいないところで無用な事を口走るんじゃないぞ!


 ニッコリと微笑んだエリシアだったが、俺の腕に擦り傷が付いていることに気付く。


「まぁ、いけません。お怪我をされてるじゃないですか。すぐに傷の手当をしなければ」


「このくらい全然平気だよ! 唾でも付けとけば……」


—————光の精霊よ。疲弊した魂に癒しを与えん。癒しの光セイントヒール !


 神々しい光に包まれた右腕。若干擦りむいていた皮膚が再構成されていき、僅かにヒリヒリしていた痛みはなくなる。傷は完全に

取り除かれて正常な皮膚へと戻っていった。


「唾じゃちゃんと治りませんから。はいっ、これでもう一安心ですね! 次からは我慢しちゃいけませんよ?」


「ごめんエリシア。これからは嘘は付かないよ。お前に心配かけさせちゃダメだよな」


 エリシアは本当に優しいし、なんだかホッコリするな。見た目だけじゃなくて性格まで最高とか惚れてしまうよ。


 回復魔法で治療を行ったエリシアは、戦闘において重要な役割を担う回復サポーターだから、ゲームでは何度も回復してもらったんだ。


「わたくしは忙しくなりそうなので、一足先に帰らせていただきます。夕食はご一緒できそうなので、また後程お会いしましょう!」


「うん! また後でな!」


 健気な後ろ姿を見送りながら、徐々に暗くなる平原で思う。何だかんだで今日は疲れたし、城に戻ってゆっくりしよう。

 


【 エリシア 】

【 親密度 : 1200 】

【 戦利品 魔女のほうき 】


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