第四話 迫りくる欲望には抗えない



「服に染みが付いてしまいました……どうしましょう……」


ここ・・で着替えた方がいい! 早く着替えないと風邪引いちゃうよ!」


 風邪を引く可能性があるほど濡れていないのは明らかだ。


 お着換えシーンを見たいがために、何の躊躇ちゅうちょもなく言い放った言葉。恥も外聞もあったもんじゃない。




「でもでも……少し恥ずかしいです。テルト様、目をつぶっててもらえませんか?」


「心配しないでくれ! 絶対……ぜーったい見ないから!」


 どの口が言っているのかと突っ込みたくなるが……。そりゃ拝ませてほしいのは山々だけど、鍛え上げた観察眼はまだ封印する。


 とりあえず目を両手で覆い隠し、視界を完全に塞ぐ————。




『ゴソゴソ……』


 タンスから替えの服を探している。次はどんなお召し物をご披露頂けるのか楽しみだ。


 見えてはいないが、上半身に着ていた薄手のワンピースを脱いでいる気配。股間の探知機が疼いているから間違いない。


『パサっ……』


 ワンピースが床に落ちる小さな音が聞こえた。


(脱いだ! エリシア完全に脱いだよ!)


 あらゆる妄想が走馬灯のように脳裏を駆け抜けていく。




「お気に入りの服が汚れてしまいました。これではもう着れないですわね」


 見えざる楽園が目と鼻の先にある。


 どうする、どうする俺。この機を逃せば下着姿を拝める機会などしばらくこないんだ。


(やっぱり可愛らしくて子供っぽい熊さんの下着……いや、むしろ大人の色気ムンムンのセクシーな下着なんじゃ……)


 興奮度は既に臨界点まで達している。




「やっぱりこちらの服にしましょうか。うーん……悩みますね~」


 エリシア、試行錯誤中。時間は余り残されていない。


 まさに究極の選択。自身の哀れな欲望と、エリシアからの親密度を天秤にかける。


 ————決めた。




 ◇




 ————————視界……解禁!!!



 最初から迷う必要なんてなかったんだ。男は欲望に忠実でなくてはならない。


 両手の中指と薬指の間をジリジリと広げ、少しずつ景色が目に入り込む。


(うおっ……うぉぉぉっ!!!)


 最初にエリシアの足先が見え、徐々にふくらはぎから膝方面へ視点が移動する。


(もうちょい、もうちょい)


 太ももから上へ上へ。可愛らしいお尻から更に上昇。


(腰のくびれヤバっ!!!)


 腰回りの肌が露わになっている。後少しで秘密の花園へ辿り着くんだ。




 ————————ドクン……ドクン……。




 外に聞こえるんじゃないかと不安になる程に、心臓の鼓動がより一層激しさを増す。


 そして遂にお胸の辺り————————。


 あれ……?




 結論。

 俺が見た景色は下着ではなく、ワンピースの下に着るスリップだった。所謂、下着が透けない為のインナーで、ヘソ上辺りまでの短いタイプの服だ。


「淑女たるもの、殿方がいる前で下着姿になる訳にはいきませんもの」


「で……ですよね~」


 勇者テルトの夢……ここに散る————。




 ◇




 興奮冷めやらぬ中、場面はとうとう夜の時間へと移り変わった。


「テルト様、今夜は旅の疲れを癒すためにも、ぐっすりとお休みになって下さいね!」


「そうさせてもらうよ! ちなみに俺はどこで寝ればいいんだ?」


「ベッドは一つしか御座いませんので、よろしければわたくしの隣で寝ても構いません」


 知り合って一日目の夜に、いきなり添い寝出来る世界は何処を探しても見つからないだろう。勇者特権が発動した瞬間だ。




 ◇




 部屋の電気が落ち、月明かりだけが窓から入り込んでいる。静かで暗い夜の時間。


 エリシアは恥ずかしかったのか、反対を向いて寝ている。月のシルエットが描かれたパジャマが何とも愛くるしい。



「んー……んっ……」



 エリシアが寝返りを打ち、一回転して俺の方を向く。美しいお顔が俺の真正面まで迫っていた。



「近っ! 超至近距離!」



 寝息が優しくて心地良い。時たま発する微かな喘ぎ声が目を覚醒させる。こんな状態でまともに眠れる訳がないだろう。


 若干大きいサイズ感のパジャマだからか、寝返りを打つ度に服が少しずつはだけ、片方の肩が露出してきている。てかブラ着けてないよ多分。



「うぉっ、セクシー過ぎる! 最高のご褒美!」



 服の隙間から谷間がチラチラ見えてるんだが。寝ている体を起こして、上方から覗き込もう。凝視してやる。



「あかん。マジで見えちゃいそう……!!」



 下着姿を拝むことは叶わなかったが、そんな瑣末な話は過去の事。今はその下着の中身が見え隠れしているのだ。


 俺の下半身のエッフェル塔は、既に爆発寸前だ。



「俺の理性よ。落ち着け……落ち着くんだ」



 さすがにまだ揉むのは早すぎる。残り数パーセントの僅かな理性を頼りに、間一髪の所でギリギリ保っている危うい状態。



「一回……一回だけなら許されるっしょ!」



 現実社会なら不同意わい◯つ罪で逮捕されそうだ。刑事事件に発展しかねない案件である。


 俺は欲望の赴くままに、大きなおっぱいを揉もうとした——————。




『トントン————』


 部屋のドアをノックする音が聞こえる。


『失礼致します』


 部屋に入ってきたのは、モンテローズ家に仕えるメイドだった。



【 エリシア・モンテローズ 】

【 親密度: 30 】


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