第三話 エリシアとの出会い



「魔王討伐に馳せ参じた勇者のテルト様で宜しいでしょうか?」


 緩み切った表情が一瞬にして真顔となり、透き通った声の主へと向き直る。


(この声は……!)


 空気感が一変し、大量の汗が噴き出てくる。力の限り精一杯捻り出した渾身の返答がこれだ————。




「てっ……テルトだ……本日はお日柄もよく……ご機嫌麗しゅう……」


 おいおい……これでは現実世界と何も変わらないじゃないか。女性を目の前にした瞬間たじろぎ、完全に目が泳いでいる。思いっきりコミュ障発動してる上に噛むとは。


 だが、これほど緊張するのには大きな理由がある。だって目の前にいる相手は……。




 ◇




【エリシア・モンテローズ】


 モンテローズ王国、王位継承権第一位の麗しき姫君。年齢18歳。次期女王の座に於ける最有力候補の一人。


 混じりけの無い綺麗なブロンドのミディアムヘアー。サイドを三つ編みに結び、頭の右上には可愛らしいリボンがチョコんと乗っている。


 両耳にはプラチナで拵えた高価なイヤリング。腕にも神秘的な装飾品が付けられている。


 礼儀正しくおしとやかな性格だが、プライベートでは子供の様にはしゃぐ場面も見受けられる。


 容姿端麗、才色兼備の美少女。


 ちなみにおっぱいは勿論大きい。弾けんばかりのタワワに実った果実だ。


 彼女こそ、誰もが認めるヒロインである。


【親密度: 10 】




 ◇




(待って待って、マジ可愛すぎ。画面越しより数十倍可愛いよこの子)


 ゲームと本物とではインパクトが違い過ぎて驚く。


 本来であれば初期の親密度は『30』なのだが、不本意ながら不信感を抱かせた為に『ー20』されている。


 あんなに一杯デートしたのに、他人行儀なのは少しショックが大きいよ?




「あの……テルト様? 先程一人で話されていたことは本当なのでしょうか? わたくしてっきり魔王討伐のために現れた勇者様かと思っていたのですが……」


「あっ……あハハハ、疲れて気が緩んでたのかなぁ~。俺は勇者だよ、間違いなく……!」


「そうでございましたか。大変失礼を致しました」


 不覚だった。展開を知り得ておきながらまさかの大失態。信頼回復には時間がかかりそうだ。




 救世主となる勇者の存在を聞きつけたエリシアが、モンテローズ城前へ迎えに来てくれる重要なシーン。エリシアとの最初の出会いとなった場所だ。


 そんな神聖なる冒頭のシーンを汚した自分に腹が立つぜ。





「テルト様、早速ですがわたくしの部屋へ着いてきてくれますか? 勇者の降臨を祝いたいのです」


「もちろんだよ、エリシア様!」


 良かった良かった一安心。流石に門前払いは困っちゃうからね。




 ◆◆




 少女の個室に上がり込む。それ即ち何か・・が起こることは必然。鼻息はいつも以上に荒い。


「モンテローズ城までの長旅ご苦労様です。お城の応接室は現在使用中ですので、わたくしの部屋でゆっくりしてください!」


「助かるよ! ありがとう!」


 薄いピンク色の大きなベッドの上に座る二人。数十センチ隣には最推しのエリシアちゃん。


(ゲームだし、ちょっとだけお触りしてもいいよね?)


 よこしまな考えが脳裏を貫く。


 公務外ということで私服姿のエリシア。少しだけ太ももが見えるショートなパンツを履いている。




 ————————ドクン……ドクン……。




 心臓の鼓動が高まる。既に理性という何か・・は失いつつある現状。


 ごく自然な動きで太ももに手を伸ばす。


『ペタっ』


(お触り!!!!!!)


 敵の領域に足を踏み入れた、自称勇者のテルトこと小森拓郎。





「まぁ……そんなに寂しかったのですか? 大丈夫ですよ。今日はわたくしがおそばにおりますから」


(めっちゃ優しいやん! やっぱ王族は懐の深さが違うな!)


 優しい言葉をかけてくれるエリシアに対して、冒険者歴一日の俺は口を開く。


「それはもう寂しくて寂しくて。勇者稼業も楽じゃないんです~」


 自称勇者の小森拓郎。異世界一日目にして一国の姫君に虚言を吐く。




「あっ……わたくし紅茶持って来ますわ。少々お待ちくださいませ」


 そう言って部屋を一時的に離れるエリシア。太ももを触っていた手が元の定位置に戻された。


 太ももタッチは当然ゲームではやらなかったが……このシーンはよく覚えてる。




 確か自室へ戻ってきたエリシアは紅茶を零すんだよね。最初に訪れる親密度アップのチャンス。



『バシャっ————————』



 部屋のドアが開かれると同時に、コップを上に乗せたお椀ごとひっくり返すエリシア。


 アタフタしているエリシアちゃんも最高に可愛らしい。しっかりしてるけど、結構ドジなこのギャップがたまらないんだ。


「エリシア様、大丈夫?」


「申し訳ございません。直ぐに片付けますので……」


「エリシア様はジッとしてて! コップ割れてるし危ないから俺が片付けてあげるよ!」


「テルト様……なんてお優しいのでしょう」


 俺は優しい男だ。この程度の気遣い当たり前だろう。




 ◇




 近くにあったビニール袋とタオルを駆使し、手際よくお片づけを開始した。


 砕け散ったコップの破片を拾い上げ、一つずつ慎重に袋へと放り込む。床を拭き、壁を拭き——————。




「エリシア様、ワンピースに紅茶が付いちゃってるよ。これも拭かないとだね」


 意外にもJKの普段着みたいな服装してるんだな。開発者がロリコンなのは言うまでもないが。


「おっと、こんな所にも水滴が付いてるよ。今拭いてあげるから」


 胸元付近に手を伸ばす変態勇者。


「テルト様……その辺はちょっと……そこは自分で拭きますから大丈夫です」


「そうか。手を汚したくなかったら何時でも言ってくれよ! 俺は拭くことに関しては超一流なんだからな!」


 禁断の果実まで残り数センチだったのが悔やまれる。もう少し親密度を上げれば許してくれるから我慢我慢。




 水滴は拭き取れたものの、当然染みになってしまったので、着替えを始めたエリシアだった。



【 エリシア・モンテローズ 】

【 親密度: 50 】


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る