第三十五話 月姫の打ち明け話
望月の夜、不思議な歌声と共に月と星の光が辺り一面に満ちた。
きらめく小さな光が手触れる場所まで落ちて来て、ふとその光に触れると、ふっと光は消え、しかし降る雪のように静かに優しく、光の粒は夜空から落ちて来たのだ。
光りはほんのり温かく、触ると消えるのだけれど、その光は身体の中に入り込み、人々の身体を温めた。なぜだか心まで温まるようだった。
「なんだろう、これは?」
宮中でも皆、その月か星の欠片のように見える光の粒を見て、そして触れていた。
「月姫……?」
なぜか、その光は月姫のものだと、帝には思えた。
空から静かに降る光。
それは帝の心にだけ、微かな不安をもたらした。
――月姫に、早く会わなくては。
光が降った翌日、驚くべきことに疫病はすっかり収まっていた。
亡くなってしまった者が生き返ることはなかったが、病に苦しんでいた人々は皆、起き上がれるようになっていた。病が重かったものはすぐに元通り、とはいかなかったが、それでも快復に向かっているらしかった。
「
「
「そうか」
あの光のお陰だと思うのだがな。
「
「はい。――あの夜、不思議な歌声が響いていました。屋敷中に。……あれは月姫ではないかと思います」
「そうか。――私もそう思う。あの光は、月姫がこの世に現れたときと同じ光のように感じた。……月姫はいかがか?」
「なぜだかふさぎ込んでいるのです」
「帰京出来て、疫病も治まったのに?」
「はい。しかも、あの事件の黒幕と思われる
「それは疫病のせいであろうか。それとも、あの光のせいであろうか」
「……分かりません。しかし、ひとまず、これで諸々の懸念事項はなくなったものと思われます」
「そうだな。ひとまずは」
「はい」
「――月姫に宮中に参るよう、伝えてくれないか」
「かしこまりました」
宮中で月姫を見るのは久しぶりだ、と
月姫は、宮中でももちろん見劣りすることなく、輝くように美しかった。豊かな髪もさらさらと流れ、大きな瞳は黒曜石のようで桃色の唇は何かを言いたげなようすを見せていた。
いや、以前にもまして、美しい。
瞳が憂いを帯びているからだろうか。
月姫が最初に参内したときは、明るく元気な雰囲気であったが、今は大人の女性の雰囲気を身にまとい、悩ましげな雰囲気も醸し出していて、それがさらに彼女の魅力を引き立てていた。
「久しぶりだな、月姫」
「お久しぶりです、
月姫はなぜか涙をこぼしながら言う。
「どうして泣くのだ? すっかり何もかも解決したというのに。もういっしょにいられるのだよ?」
「帝……」
「
「
月姫は大きな黒目勝ちの瞳に涙を潤ませて、帝を見た。
「……どうかしたのか?」
「あたし、
「何?」
「あたしは実はここの人間ではありません。もっとずっと上の層の人間なのです」
「それでも構わないよ。あなたはあなただから」
「帝……」
月姫は涙をはらはらこぼすと、思い切ったように言った。
「あたし、帰らなくてはならないのです。もといた場所に――」
「それはどういうことだ?」
表情を変えた
「世界は
確かに、月姫は生まれも育ちも、私たち人間とは全く違った。
ただ人ではないと思っていたが、まさかそのようなことが。
月姫は静かに涙を流し続ける。
泣いている姿ですら美しい、と帝は思う。
この美しさも、ただ人ではないからだろうか。
……なんて愛しいのだろう。
「月姫。私が守ろう、あなたを」
「
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