第三十二話 二人の時間と都からの使者
「ようやく二人きりだね」
「は、はい」
これと言うのも、
月姫は、
「……月がきれいだね」
帝は、月を見るために開けた
「はい」
月は白銀に光り、虹の輪を作っていた。
「ねえ、……もう少し、そばに行ってもいい?」
帝は青みがかった瞳で、月姫をじっと見た。
月姫が帝の目から視線を逸らせないまま答えられずにいると、
「……会いたかったよ」
「あ、あの!」
「……ずっとこうして、あなたの手をとりたかった、月姫」
「帝……!」
「本当に会いたかったんだ」
懐かしい香りだ。
帝の
そして、抱き締められながら月姫は涙を流していた。
「あたしも、本当にお会いしたかったです……」
宴は小さいながらもとてもよい雰囲気だった。
少し頬を赤らめて、月姫に頭を下げて伊吹とともにどこかに行った。
……いいな。
月が、とても美しかった。
丸い月の周りには虹が出来ていて、白銀と虹の光の粒が降り注ぐようだった。月明かりだけで、とても明るい夜だった。
二人でいろいろな話をした。寄り添って。
離れていた間のこと、さみしかったこと。
お互いの和歌の感想。
話は尽きることがないように見えた。
月姫は、青みがかった帝の目を見て、なんて懐かしくて愛しいのだろうと思い、
「月姫。結婚して欲しいって言ったこと、覚えている?」
「はい、もちろんです」
「――今すぐとはいかないけれど、待っていて欲しい。私と結婚して欲しい」
「……はい……!」
月姫と
――そのときである。
屋敷が急に慌ただしくなった。
「何だ?」
「使者が来たみたいだわ」
月姫が帝と様子を伺っていると、
「帝、都より使者が参りました!」
「……私はいま着いたところだぞ」
「帝が出発されて数日後、恐ろしいことが起こり、急ぎ使者が遣わされたのです」
「何があった?」
「右大臣が――
「何⁉」
「高熱が出て意識もないようです。使者がこちらへ遣わされるときは、あと数日の命だということでしたので、恐らく今頃は……。どうやら、
疫病……!
そう言えば、朝扉がそんなことを言っていたわ。疫病が流行していると。
先の右大臣って、
……疫病って、インフルエンザとか? ウィルスが原因で起こるのよね、確か。
月姫は第一階層にいたときの知識を思い出していた。
第一階層には病は存在しなかったし、疫病も、ある階層以下でしか発現しないものだったが、知識としては持っていた。疫病で死を迎えて第一階層に来る魂も多くあった。
月姫が考え込んでいると、
「年末から疫病が流行り出していたが……そうか、
「さようでございます。実は、
「何っ⁉」と帝が言い、月姫は「えっ」と小さく声を上げた。
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