第三十話 灯りが消えたような
年が改まり、
「やった! やったぞ!」
これまでずっと、
「おめでとうございます」
「うんうん」
「あの帝がなかなか首を縦に振らなんだが、ようやく念願が叶ったわ!」
「よろしゅうございました」
笑ってはいるが冷ややかな視線で、だけどそこにいる誰もが
父のはしゃぎっぷりに
あれが一番邪魔だな。
賢い帝は要らないのだ。
帝というものは、もう少し暗愚で、こちらの言うなりになるものであればいい。
――父上のように。
屋敷の皆は父上の扱いに苦慮しているようだが、どこに困るところがあろう。なんて御しやすく、分かりやすいのか。単純で欲望が明確で。
かわいいものではないか。
そして、心の中で思った。
なんとかして排除出来ないものだろか。
灯りが消えたようだ。
何を見ても月姫を思い出す。
すぐそこに月姫がいるように感じた。
――でもいない。
別離は恋しい気持ちをいっそうかき立てた。
あまりにさみしくて、
「君を頼りに(あなたを頼りに生きているのです)」
――月姫たちが早く都に戻れるようにしたい……!
「わが恋はゆくゑも知らぬ小船かな(あたしの恋は行く先も分からない小船のようです)」の和歌を読んだときは、月姫の心細さを思って涙が出そうになった。遠い
「恋しい君に逢へずして乱れて流れるる(恋しいあなたに会えなくて、心が乱れ流れるようです)」
……このような自分は全く信じられない。
日が沈みかけた室内は、微かに暗くなってきていた。
分かっている。
今は恋しい思いよりも優先してやらねばならないことがある。
左大臣
「文句を言うのだけはうまかったがな」
……しかし、問題は
だが、
まだ年若いのに目つきの鋭い顔つきの
彼の動きをうまく封じないと、駄目だ。
月姫に最後まで文を送り続けていた、
……最も、
あれには、
……いずれにせよ、一番油断ならないのは、
「帝、よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ」
帝はそう言い、月姫からの文を文箱にそっとしまった。
「帝――。一度、伊予に行かれてはいかがでしょう?」
「伊予に?」
「はい」
それは行きたい。
月姫に会いたい。
「だがしかし、今、宮中を空けるわけにはいくまい。どんなに急いでも半月以上かかるだろう。その間に
「……だから、行くのですよ」
「何か仕掛けてくるのを、待つのか?」
「はい。ですから、都には私が残ります。帝は
「……どんな動きがありそうだ?」
「
「……なるほど」
暮れなずみ、室内は灯りが必要な暗さになっていた。しかし、二人は灯りをともすことなく、声を小さくして話を続けた。
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