第二十六話 噂
そんな中、まことしやかに、ある噂が広がっていた。
いわく、建春門を焼いたのは
いわく、
月姫は建春門から逃げて恋仲である
おまけに先の呪術の
さわさわさわと、噂は静かな音を立てて宮中全体に広がり、皆、顔を合わせるとその噂話で持ちきりだった。
当然、月姫は腹を立てていた。
何しろ、根も葉もない噂なのである。
しかし、その、根も葉もない嘘の話を、あたかも真実であるかのように、皆が話しているのである。
「何なのよ、いったい! どうしてそんな嘘ばかりの話を皆信じちゃうの? ひどいわっ」
泣く月姫を
しかし、噂はいっこうに収まらなかった。収まらないどころが、どんどん広がっていき話も大きくなっていった。
「噂、全然収まらないわ。それどころか、どんどんひどくなるわ!」
月姫の言う通りだった。
確か、最初は建春門の近くで
その噂を月姫と
しかしすぐに、その場に月姫さまもいたらしい、という噂が加わり、では、
どうしてそんな根も葉もない噂が? 嘘ならばしばらくしたら収まるだろうと思っていたら、甘かった。あっという間に、
最近ではそこに、月姫は
月姫が一番心を痛めていたのは、自分が長兄である
その様を見ていた
涙が月の雫のよう。
……これは誰かの恨みとか妬みを買うのも仕方がないのかもしれない。
「
建春門が焼け落ちた後処理で、
もうずっと、まともに会えていない。
その間に、噂はとどまるところを知らぬげに、蔓延していった。
月姫はどうすることも出来ずにいた。
〔
でも、誰に?
噂が広まり過ぎていて、異能力を使おうにも誰にどのように使ったらいいか、分からなかった。さりとて、あまりに多くの人に使うのは、危険だと思われた。第一階層での混乱を思い返すと、むやみに多くの人間に〔
そうして、月姫はいつになく落ち込み、涙にくれていたのである。
管弦の宴のときの帝を、折に触れて思い出していた。……あんなに近くにいたのに。
嘆き悲しむ月姫を見て、
「和歌を詠んでお届けしたらどうですか?
「……うん。そうしてみる」
月姫が帝に送った歌。
知る知らぬ夢の中にてひと目見む ただ一筋に恋わたるべし
(あなたはご存知でしょうか。それともご存知ないでしょうか。夢の中でいいから、ひと目お会いしたいのです。ただ、あなただけを一途にお慕い申し上げております。)
帝からの返歌。
夢にだに見ゆれば嬉し月の夜 ゆめうたがふな恋しき思ひを
(夢でさえ会えたら、私も嬉しいです。月の夜に、月姫、あなたに。どうか決して疑わないでください。信じていてください、私の気持ちを。恋しく思っています。)
月姫が帝からの返歌を読み返し、胸に文を当てて涙を流していると、
「お兄さま? どうかなさったのですか?」
月姫が訊くと、
「月姫、大変なことになった」
「大変なこと?」
「――流罪が決定した」
「え?」
「月姫、あなたの。それから父上と
「どうして、そんな……‼」
あたしがいったい、何をしたと言うの?
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